プロアクティブな検知 – テロ対策の新たなアプローチ
アナリティクスとビジュアルな調査環境が、絶えず変化するテロリストの脅威との闘いにおいて鍵となる理由
ニック・フィースト(Nick Feast)、不正対策・金融犯罪スペシャリスト、Fraud and Security Intelligence部門(EMEA & AP地域担当)、SAS
目覚めると、また別の悲惨なテロ攻撃が発生しており、その余波を伝える映像や写真がテレビや新聞を埋め尽くすという日々が、昨今はあまりに多すぎます。それを目にした人々はショックを受け、無力感に襲われ、困惑し、次はいつ、どこでテロ攻撃が起こるのかと不安を募らせます。このような事件が人々の生活に深刻な脅威を突きつけることは言うまでもありません。
状況をさらに悪化させているのは、こうした攻撃のローテク化が進んでおり、武器として車両を選択する過激派が増えている傾向です。この種の自爆攻撃は最小限の組織でも実行でき、証拠となる痕跡がほとんど残らないことから、従来の手法を用いてテロに対抗することは困難です。したがって、過激派を特定する取り組みにおいては、それ以外の手段で検知できる彼らの行動面にフォーカスすることが極めて重要です。
当局はテロに関与する個人の特定に全力を尽くしていると言いますが、攻撃が後を絶たないという事実は、現在の戦略が実効性を失っていることを示唆しています。私たち市民の保護を責務としている諸機関は、適切な場所を監視しているのでしょうか?
テロと闘うためのインテリジェンス(情報分析/諜報活動)の流れと質を改善するには、どうすればよいのでしょう?
金融機関:第1の防衛線
金融情報は従来の様々なテロ対策調査の情報源となってきました。この情報を利用すれば、人々の移動や活動に対する理解を深めたり、過激派の構成員間の重要なつながりを浮かび上がらせたりすることができます。また、テロ攻撃の発生後、調査担当者が個人のテロリストによる単独犯ではないことを速やかに解明したり、捜査機関がテロ集団のメンバー全員を特定・逮捕したりする上で、こうした情報が鍵となることも多々あります。個人とその取引に関連する金融データは、適切に利用すれば、インテリジェンスの実効性を大きく高める可能性があることから、テロとの闘いにおける極めて貴重な「必需品」と見なされるべきです。
しかし、もし読者の皆さんが、テロリストの活動の特定というタスクに責任を負っているのは政府やセキュリティ・サービスだけだとお考えなら、再考が必要です。金融機関は、法執行機関やセキュリティ・サービスとは異なり、人口の大きな比率を占める人々に関する豊富なデータセットに直接アクセスできる立場にあるため、非常に大きな役割を担える可能性があります。金融機関には、テロ組織や過激派の特定に役立つ金融データのパワーを理解した上で、それをテロ対策のために最大限に活用することが望まれます。
現状
テロとの関連が疑われる事案の報告を求める規制当局からのプレッシャーが増大しているにもかかわらず、金融機関が注力している現行の取り組みの多くは、従来どおりのテロ資金対策(CTF)や、マネーロンダリング防止(AML)に関する議論で優勢なその他のアプローチ(取引のモニタリング、国際制裁違反防止のためのスクリーニングなど)です。こうした取り組みは、ある種のリスクの特定には役立ちますが、本質的にリアクティブ(受動的)なものであるため、防止手段としての効果はほとんどありません。また、制裁リストに掲載されている個人や、取引活動が所定の基準値や閾値に引っかかる個人しか検出できないという制約もあります。制裁リストに掲載されていない人物や、取引活動の閾値チェックをくぐり抜ける人物については、どうすればよいのでしょう?
多くの調査チームでは、検知率を高めたいと考えてはいるものの、人員が不足しており、どの領域で何を調査すべきかに関する理解も足りていないのが実情です。何か疑わしいと思うことが見つかった場合でも、それを正しく解釈する工程は必ずしも単純明快ではありません。脅威を特定するための鍵はデータですが、データ品質の低さやデータの縦割り管理の複雑さが組織の足を引っ張るケースは多々あり、その結果、検知に時間がかかりすぎたり、混乱が生じたり、最悪の場合は検知が不可能なことさえあります。
金融機関は、法執行機関やセキュリティ・サービスとは異なり、人口の大きな比率を占める人々に関する豊富なデータセットに直接アクセスできる立場にあるため、非常に大きな役割を担える可能性があります。金融機関には、テロ組織や過激派の特定に役立つ金融データのパワーを理解した上で、それを最大限に活用することが望まれます。 ニック・フィースト(Nick Feast) 不正対策・金融犯罪スペシャリスト、Fraud and Security Intelligence部門(EMEAおよびAP担当) SAS
新たなアプローチを採り入れるべき時期の到来
テロ対策に取り組む調査チームは、既に保有しているデータで何が行えるかを再発見すべき時期を迎えています。それは、ほんの少し異なるアプローチや新たな観点を適用するだけで達成可能です。金融機関はいくつかのステップを実行することで、「プロアクティブ(能動的)な検知」をテロ対策の中心に据えるという変革を素早く実現できます。
- 調査担当者のトレーニング:調査担当者は、個々のリスクについてリスクレベル増大の兆候を検知する方法を知っていなければなりません。それがリスク・プロファイルの変化として現れるのは言うまでもありませんが、何を監視すべきかを知る必要があります。
- フォーカスの拡大:金融機関は、従来のテロ資金対策や、リスクの高い国や管轄区域を出入りする資金移動にのみ集中するのではなく、個々のテロリストを監視するための取り組みを拡大していかなければなりません。過激派全員を資金の流れに結びつけることは不可能であるため、個々の構成員の特定というタスクを無視することはできません。
- データへのアクセスの改善:適切なシステムに投資することで、調査担当者が異種混在のソースデータにアクセスし、必要なデータを単一のプラットフォームに統合できるようなデータ活用環境を整備します。必要なのは、様々な個人やその取引活動の間のつながりを的確に理解するための分析手法をサポートし、なおかつ、強力なビジュアライゼーション(視覚化)機能も備えたシステムです。
- 検知の可能性の強化:高度なアナリティクスと、特定領域の深い知識や自動アラート機能を組み合わせると、脅威を特定する作業を効率化し、個別の詳細な調査活動にかける時間を増やすことができます。既に関連情報のアクセス環境が整っている組織でも、手作業のプロセスが負担となっている場合には、人間の代わりに脅威を検知してくれるソリューションの導入が次の論理的なステップとなるでしょう。
テロ攻撃と犠牲者が後を絶たないことから、政府が規制を強化し、金融データを活用した更なるテロ対策を金融機関に求めてくることは避けられない情勢です。幸い、一部の金融機関は既に、当局が最新の脅威レベルを的確に把握するために役立つ貴重な情報を自分たちが保持していることを理解しています。最後にもう一度繰り返しますが、金融機関が保持しているデータには、次の攻撃を特定および防止し、ひいては何の罪もない命を救うために役立つ極めて重要なインテリジェンスを補完できる可能性が秘められているのです。
犯罪・テロ対策における調査アナリティクスとインテリジェントなケース・マネジメントの重要性
法執行機関や諜報機関の役割は、最終的に社会や市民の安全を維持することです。世界中の関係機関や関係部門では、かつてないほど大量の情報を利用できるようになっていますが、調査や法執行のためにその意味を解明する作業は、極めて困難な取り組みとなる可能性があります。こうした業務の統括責任者や調査担当者は、「膨大な量の情報を総合的に分析し、犯罪者、犯罪集団、さらには潜在的なテロ・ネットワークについて一貫したストーリーを組み立てる」という難しいタスクを抱えています。
高度なアナリティクスが法執行や諜報活動における調査・分析をいかにサポートするかの詳細(Webセミナー録画、英語)
著者紹介
ニック・フィースト(Nick Feast)は、英国、EMEA地域、AP地域のリテール・バンキング/金融サービス業界を対象として、不正対策/金融犯罪対策ソリューションに関するプリセールス活動と各分野の専門知識を開発・提供しています。主要な不正手口に精通しており、不正対策やコンプライアンスに関する幅広いトレンド(内部不正、虚偽申請詐欺と第一人者詐欺、保険金詐欺、マネーロンダリング防止(AML)、テロ資金対策(CTF)、テロ集団特定など)を熟知しています。また、高度な不正検知手法(特にソーシャル・ネットワーク分析の領域)にも強い関心を寄せています。ミドルセックス大学(Middlesex University、英国ロンドン)で犯罪学の学士号と修士号を取得しており、専門は組織犯罪です。
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