アナリティクスを活用した処方薬の監視
処方薬監視プログラム(PDMP)を活用することで、医師や薬剤師は、薬物の乱用・転用の防止に役立つ洞察を得ることができます。
オピオイド依存症の処方薬監視プログラムには、従来の監視プログラムよりも圧倒的に広範なデータ管理が求められます。そのため、優れたアナリティクスとともに最新の手法で複数の機関と情報システムを連携させ、十分な情報に基づく意思決定力と成果を生み出すことが不可欠となります。
トップニュースとして報じられる有名人の死は、この深刻な問題における氷河の一角でしかありません。米国疾病管理予防センター(CDC)(英語)によると、薬物の過量摂取は米国における事故死の最大の原因とされ、2014年には47,055件の過量摂取死が発生しています。オピオイド中毒がこの依存症の主な要因であり、実に18,893件が処方箋を必要とする鎮痛薬を過量摂取したことによる関連死でした。
一般的には、「Percocet」「Vicodin」「OxyContin」などの商品名で知られているもので、当初、これらの薬剤は医療上の由来から市販薬よりも安全であるとされていましたが、その強力さゆえ非常に危険な薬品でもあります。2012年には、合成オピオイドの鎮痛剤の中でもフェンタニル(「Duragesic」「Actiq」「Fentora」など)が最も広く使用されるようになりました。フェンタニルには、モルヒネの80~100倍、また純度100パーセントの医療用ヘロインの40~50倍の効果があり、使用済みのフェンタニル・パッチに触れた子供が死亡したケースも報告されています。
この種の薬物は摂取によって多幸感が得られることから、非常に中毒性が高く、乱用も拡大しています。米国疾病管理予防センターも、これが依存症として蔓延したことを認めており、人々の生活背景や地域を問わず、社会と経済全体に大きな影響を与えています。
この問題に対処するために、米国は処方薬監視プログラム(PDMP)の推進に力を入れており、セキュアなオンライン・ポータルを経由して処方箋の発行・調剤を記録することができるデータベースが構築されました。これは処方実績を包括的に把握し、パターンに基づいて調剤薬局、製薬会社、規制機関が薬物の乱用や中毒の兆候を発見しやすくするものですが、このような監視プログラムには限界があるのも事実です。
- データは、さまざまなデータソースから統合しなければなりません。膨大な数の調剤薬局と医療機関から提供されるデータを統合し、患者の行動を一元的に把握する作業は、プライバシー保護の観点からも複雑であり、また多くの時間も要します。
- しかも、これらのデータから必ずしも有益な洞察が得られるとは限りません。一般的な処方薬監視プログラムは、単なる処方実績データの収集にとどまっており、データ分析によって予防的に不適切/不審な行動を検出しているのは、全体のごく一部に限られます。
- また、医師の大半はこのプログラムを活用していません。処方薬監視プログラムのシステム自体は米国の49州で導入が義務化されているものの、医師による処方前確認を必須にしているのはわずか22州であり、コンプライアンス上の観点からも完全な実施はほど遠いのが現状です。医師からはシステムが業務フローに適合していないことや、アクセス管理のために時間がかかりすぎる難点が指摘されています。Webポータルを開いた状態であっても、特定の患者に関する記録の検索や評価に3~7分も要します。1人の患者と接する時間が15分と限られている中で、これでは遅すぎます。
処方薬監視プログラムの今後と可能性
International Institute for Analytics社によるレポート「Data and Analytics to Combat the Opioid Epidemic(データとアナリティクスの活用:オピオイド依存症に対する処方箋)」では、SASのスティーブ・カーニー(Steve Kearney)とジェン・ダナム(Jen Dunham)がこの問題の背景と対策を取り上げています。2人は「処方薬監視プログラムを改善して医療関係者が使えるようにする」だけでは不十分だと指摘しています。つまり、監視プログラムを活用して、より多くの有益な情報を導き出すことが重要なのです。
例えば、患者が3人の専門医から診療を受け、2カ所以上の調剤薬局を使っている場合、処方薬監視プログラムが提供する単純な処方箋リストでは状況の把握が難しく、処方箋は単なるパズルの1ピースでしかありません。そのため、健康状態の電子記録や救急処置の履歴といったさまざまなデータも取り込むことによって、情報を包括的に把握することが不可欠となります。
高品質のデータは単なる調剤場所の特定にとどまらず、処方薬監視プログラムにとっても多くのメリットをもたらします。データが良質であれば、処置手順、医療従事者の教育、指針・方針に関する意思決定の改善にもつながります。包括的なデータと優れたアナリティクスによって、以下のようなメリットが得られます。
- 医師は、他の医師による処置や治療結果との比較をはじめ、中毒/過量摂取の兆候を示すパターンを把握することができます。アナリティクスによって明らかになった患者のシナリオを確認し、的確に処方・紹介することで、総合的に最適な成果を上げることができます。
- 薬剤費の支払者は、その処方箋が適切であるかどうか、不適切な服用や転用の可能性がないかを確認でき、詐欺や不適切な服用の費用を負担することなく、患者を中毒から守るための措置をとることができます。
- 大規模な病院、免許交付団体、および公共衛生機関は、データドリブンの素早い意思決定、専門性に応じた事業者評価をはじめ、治療ガイドライン、人材教育のイニシアチブ、医療機器や人員の配置を改善することができます。
- 調剤薬局は、地域、支払者、医療機関、患者といった条件で調合作業を比較することができます。また、データとアナリティクスを活用することで、注意が必要な異常を特定することも可能です。
- 州などの自治体では、地域のニーズを考慮して資金を配賦すべき医療施設や、特定の病歴をもつ患者に最適な施設を確認することができます。
- 医療機関と研究者は、本来の疼痛に対する治療だけでなく、薬物依存が疑われる場合の是正についても優れた処方手順を開発することができます。
データを統合することで、さまざまな要素を横断的に連携させることが可能になります。これにより問題の全体像を把握するだけでなく、理想とする成果の明確化や、その実現に向けた取り組みを強化することにつながり、悲劇が起こる前に尊い命を救うことができます。