AIマーケティング: どのような未来を秘めているのか?
デジタル・アナリストにして未来派主義者でもあるブライアン・ソリス(Brian Solis)氏は、人工知能は「パーソナライズされたエクスペリエンスを生活にもたらす」と確信しています。
執筆: ジェフ・アルフォード(Jeff Alford)、SAS Marketing Insights Editor
AIマーケティングとは、機械学習などの技法を用いてリアルタイムで個人別のオファーを作成することで、カスタマー・エクスペリエンスの改善を図る取り組みです。AIマーケティングが企業や組織にもたらすメリットは大規模な自動化と反復的なタスクに由来しており、ビジネスリーダーは戦略的プランニングや創造的メッセージングといった領域に対してリソースを再配置できるようになります。
AIマーケティングは企業のマーケティング・アプローチをどのように変えるのでしょうか? 私は先日、Altimeter社の主席アナリストであるブライアン・ソリス氏に質問する機会を得ました。彼は未来派主義者およびビジネス戦略家として広く知られており、企業における新しいメディア戦略やフレームワークの構築を支援してきました。読者の皆さんが私と同じように、以下の質疑応答に説得力を感じることを願っています。
人工知能(AI)の時代にマーケティングはどのように進化していくのか?
ソリス氏: AIマーケティングは “次の一大事” です。これにより、ブランド各社は「マーケティング・オートメーション」から「パーソナライズされたエクスペリエンス」へとシフトしていくでしょう(ようやくです!)。ただし、「マーケティングを人間味のあるものにするために人工知能が必要とされる」というのは大きな皮肉ですが──。モバイル、ソーシャル、リアルタイムといったテクノロジーのおかげで、消費者は「常時オン」の状態にあります。また、オンデマンド型のアプリやサービスの普及と、ソーシャルメディアが「人々のつながり方、共有方法、コミュニケーション方法」にもたらした影響により、消費者は要求水準を高めており、(うっかり)自己陶酔的になる傾向も高まっています。彼らは今すぐ欲しいと思い、ますます “せっかち” になっています。エンゲージメントがパーソナライズされることを望んでおり、新しい格別のエクスペリエンスを望んでいます。
これは目新しいことではありません。デジタル・マーケターたちは、この信じられないシフトを過去10年にわたって目の当たりにしてきました。エキスパートたちは長年、パーソナライゼーション、クロスチャネル/オムニチャネルの統合、レスポンシブ/アダプティブなデザイン、そしてダイナミックなエンゲージメントの必要性について語ってきました。しかし、これほどの時間と進展を経た後も、消費者の期待や好みに沿った方法で優れた消費者エンゲージメントを行うためのマーケティング・イノベーションは、ほとんど存在していません。
個々の新しいテクノロジー・トレンドがマーケターにパワフルな新機能を提供しているとしても、マーケティングの大部分は依然として昔ながらのプレイブック(攻略本)に沿って運営されています。むしろ、何年にもわたり、“破壊的” なテクノロジーがマーケターのリスク回避志向を強めてきた、と言えるでしょう。マーケターは、MarTechとマーケティング・オートメーションのためにパーソナライゼーションを犠牲にしてきました。そもそも、新しいテクノロジーには、長らく受け継がれてきたマインドセットやアプローチを永続化させる側面もあります。たとえそれが「顧客の意思決定や総合的ブランド・リレーションシップに働きかけ、顧客をガイド/ナーチャリングするための画期的な手段」の創出を促すとしても、です。
ただし、今の状況が過去と違うのは、“ゲームを変える” ためにAIとデータを利用できる状況が既に整っている、という点です。
マーケティングには今、かつてないほど新しいプレイブックが必要とされており、AI(および機械学習)こそが、遅ればせながらのマーケティング・トランスフォーメーションを実現させる触媒として働くことになるでしょう。我々はようやく、オートメーションからパーソナライゼーションへのシフト、そして最終的には予想から予測へのシフトを実現することになります。
AIマーケティングという新しい時代にようこそ。ここでは、マーケティングのパーソナル性や人間味を向上させる取り組みをマシンが手伝ってくれます。
AIマーケティングでは、インテリジェント・テクノロジーと人間のクリエイティビティを組み合わせ、消費者に関する学習/理解/エンゲージメントに個人レベルで取り組みます。ハイパーパーソナライズされた的確でタイムリーなコミュニケーションを用いることで、消費者に「今後も関わり合いを続けたい」と感じてもらうことを目指すのです。 Brian Solis Principal Analyst Altimeter
AIマーケティングは従来のマーケティングを再形成するのか?
ソリス氏: 現代の消費者から以下のような見解を聞くことは決してありません。
「私はブランドの汎用的なマーケティング・メッセージを見るのが大好きです!」
「オンラインで調べた製品がWeb全体にわたって私を追いかけてくるのが大好きです。」
「私はブランドから大量のEメールやテキスト・メッセージを受け取るのが大好きです!」
「マーケターはオンラインで私好みのコンテンツを生成してくれます!」
[消費者としての]我々は決してこうした発言をしませんが、マーケターは「自身のあらゆる行為において、現実の人々との接触を失う」という罪を余りに頻繁に犯してします。そしてそれこそが、マーケティングが直面している課題であり、また、AI/機械学習が極めて大きな機会を提示している理由です。真の課題は人間です。昨日のスタンダード、マインドセット、チェックリストが依然として過度に影響を及ぼしており、マーケティングを過去に引き止めているのです。
[そうした過去の]マーケティング戦略とは、可能性のあるすべてのチャネルにまたがり大衆に向けてブロードキャスト(一斉送信)することです。マーケターは人々に「一方的に」話しかけるだけであり、相手が誰であるか、何に価値を感じ誰を愛するのか、どんな目標や願望を持っているのか、何を軽蔑するのか、そしてもっと重要なこととして、いつ、どこで、どのように意思決定をするのか、といったことを理解するために時間を割いたりはしません。
[しかし今の時代において、]発見から、検討、意思決定、体験の共有に至るまでのカスタマー・ジャーニーの主導権を完全に握っているのは顧客自身です。また、顧客がどのようなデバイスを、いつ、どこで使うのかという要因によっても、ジャーニーの開始/離脱方法が再形成されつつあります。常時接続された消費者は、パーソナライズされたエクスペリエンス、リアルタイムのエンゲージメント、有用性、簡潔性を期待しています。
AIと機械学習はマーケティングから勘や推測を取り除き、以前のプレイブックには載っていない方法でマーケターが現代の顧客を理解できるよう支援します。AIマーケティングでは、インテリジェント・テクノロジーと人間のクリエイティビティを組み合わせ、消費者に関する学習/理解/エンゲージメントに個人レベルで取り組みます。ハイパーパーソナライズされた的確でタイムリーなコミュニケーションを用いることで、消費者に「今後も関わり合いを続けたい」と感じてもらうことを目指すのです。AIはまた、マーケターが「消費者の好むチャネルおよびデバイス上で、消費者が受け取りたいと思うタイミングで、的確なコンテンツを用いて、究極的にパーソナライズされたメッセージを作成する取り組み」もガイドします。
AIマーケティングはマーケターの役割や専門知識要件をどのように変えるのか?
ソリス氏: 大規模な一対一(one-to-one)型のパーソナライゼーション(“個客” パーソナライゼーション)は、[マーケターの力だけでは]単純に不可能です。パーソナライズされたエクスペリエンスを生活にもたらすためには、AIドリブン型(駆動型)プラットフォームの各種機能、顧客データ、コンテンツ、洞察を理解しているマーケティング・アーキテクツの存在が必要です。こうした認識が「カスタマー・ジャーニー全体を強化する、コンテキスト対応型で個人別に的確化されたエンゲージメント」への扉を開きます。別の言い方をすると、インテリジェント・マーケティングこそが「認知⇒リーチ⇒コンバージョン」の枠を超えたレベルへの移行を実現することができ、それを実現するはずである、ということです。マーケティングが今やるべきことは、カスタマー・ジャーニー全体を考慮した上で、顧客のジャーニーおよびライフサイクル全体を通じてカスタマー・エクスペリエンスを強化するようなタッチポイントおよびエンゲージメントを設計することです。
マーケターは、顧客がどのように進化および行動しているのかについて、また、AIマーケティングがどのように役立つのかについて学ばなければなりません。これは、マーケターにはクリエイティビティ以上のものが求められている、という意味です。また、データ以上のものが求められている、ということでもあります。マーケターは既知の知見や成功基準を “破壊” する態勢を整えなければなりません。彼らに求められているのは、進化し続けるスタンダードを上回る成果を挙げるべく慣例や想定の打破に挑もうとする、オープンかつ好奇心旺盛なマインドです。
これは、さまざまな疑問を提起することから始まります。適切なデータを用いて適切な答えを取得した上で的確なエンゲージメント・プログラム、コンテンツ、パス(経路)を作成することによって、[消費者の]成熟化する期待や価値観を満たすこと、さらには超えることを目指すのです。
私は昨年、良き友人のサミーア・パテル(Sameer Patel)氏と一緒に、AIマーケティングに関するガイドラインを策定する機会がありました。我々はモデルの基盤を「ジャーナリズムの5つのW」に置きました(右のコラムを参照)。
これら5つのWは、各種のAIツールをマーケティング・スタックに統合する取り組みとの組み合わせにより、マーケターを新しいモダンなマーケティング基盤へと後押しします。
また、マーケティング自体も、想定やクリエイティブ主導型プロセスを超えたレベルへと進化することになり、顧客やビジネスにフォーカスするインテリジェントな洞察や成果によって推進されるようになります。そのためには、測定の役割も、AIマーケティングと機械学習の時代に相応しいレベルに進歩しなければなりません。
多くの場合、マーケティングの目標は「一斉にまとめて働きかけ、平均以上のコンバージョン率の達成を願いながら、できるだけ多くの消費者にリーチすること」です。しかし、マーケターにとっての課題の一部は、「今日の戦略の多くが、ターゲティングや事業成長とリンクしない評価指標によって駆動されている」ということです。
AIマーケティングは、「思い込みを超えたレベルで互恵的な成果へと結び付くような、事業成長面/エンゲージメント面/エクスペリエンス面の評価指標」を重視する新しいマインドセットの形成を導きます。
AIマーケティングは差別化要因になるのか、あるいは、パーソナライズされたエクスペリエンスに関する競争水準を上げることになるのか?
ソリス氏: マーケティングの未来は既に目の前にあります。今や現代のマーケターは、正真正銘の付加価値型の消費者エンゲージメントのための「インテリジェントで自動化された人間中心型のプラットフォーム」を利用できるようになっています。これを利用すれば、消費者の期待に沿った「パーソナライズされた生産的で魅惑的なエクスペリエンス」を提供することで、信じられないほどの競争優位性を獲得できます。
AIマーケティングの5つのW
ここでは、現行のアプローチと既存または台頭中のAIテクノロジーとを組み合わせて分析的マーケティングの取り組みを改善する方法の一例を紹介します。ブライアン・ソリス氏とサミーア・パテル氏は自分たちのモデルの基盤を、ジャーナリストが数十年にわたり利用してきた情報収集ガイドラインに置きました。
Who : 関心を表明している人々は「誰」で、セグメント全体またはすべての受信登録者にブロードキャストするのではなく、彼らに上手くターゲット化するにはどうすればよいか?
What : 彼らの好みや行動に基づくと、彼らは「どのような」コンテンツに価値を感じると思われるか?誰にでも当てはまる汎用的なメッセージではなく、彼らのために高度にパーソナライズされたコンテンツを作成する必要がある。
When: 的確なメッセージを送信する理想的なタイミングは「いつ」か?顧客が重要なアクションを取りそうなタイミングや、最も反応しそうなタイミングはいつか?
Where: 消費者の好みに寄り添ってエンゲージメントを促進するには、メッセージを「どこ」(チャネルやデバイス)に配信するべきか?
Ways : ブランドとの関わり合い方をめぐる顧客の好み/期待を高精度に学習する「方法」は何か?
AIマーケティングは、「マーケターが “失われた時” をほぼ瞬時に埋め合わせ、競争相手に一足飛びに追い付き、さらには “顧客が好む方法/価値を感じる方法/見返りをもたらしてくれそうな方法” で顧客と効果的に関わり合うこと」を可能にする手段と言えます。
現代のマーケティング・チェックリストは消費者をすべての中心に据えており、データドリブンな方法で消費者の好みにリアルタイムで適応および反応します。各種の戦略には、消費者がエクスペリエンスの改善と引き換えに納得ずくで残していく “デジタルのパンくず”、すなわち各種の重要データ(例:場所、デバイス、意図、アクティビティなど)に基づく情報が反映されます。
ここでの朗報は、マーケターは既存のマーケティング・オートメーション・スタックに機械学習やAIマーケティング・ツールをすぐに統合することができる、ということです。これには既存のEメール・サービス・プロバイダーの有効活用も含まれます。AIマーケティングは、飛躍的な精度と成果の向上をもたらすことができ、それが最終利益の向上へと直結します。
インテリジェントな洞察を用いてカスタマー・エンゲージメントを改善し、より大きな価値を実現する様子を想像してください。しかし、これは収益の向上に限った話ではありません。現代のブランド各社は新しいテクノロジー(および的確な情報に基づくクリエイティビティ)を活用して「顧客エンゲージメントの向上」、「顧客満足度の改善」、「顧客ロイヤルティの醸成」、「顧客コミュニティの育成」を図ることで、価値を実現しています。時の経過とともに、機械学習とAIマーケティングは現代のマーケターの成熟を促していくでしょう。マーケターは顧客が発見・購入するタイミングでオファーをパーソナライズし、カスタマー・ジャーニーとクリックパス(クリックの経路)を最適化し、顧客が次に欲しいものを高い精度で予測し、より的確にパーソナライズされたレコメンドを顧客に提示する、という方法で全面的にイノベーションを推進することになります。
重要なのは、消費者が好む方法や価値を感じる方法で各種機能を提供することです。AIと機械学習が、摩擦ポイントや新たな機会を特定するタスクを課されたときに、どれほど多くの追加的な知見を解明しうるかを想像してください。 Brian Solis
AIマーケティングへのシフトは、データがさらなる競争優位性になることを意味するのでしょうか?
ソリス氏: AIマーケティングと機械学習は、学習/脱学習するべき対象に関する認知バイアスを伴わずに、データをカスタマー・インサイト(顧客に対する洞察)に変換することができます。AIは、重要な洞察を導き出す人々に競争優位性をもたらすだけでなく、それを実行し、効果を測定し、結果に反応するサイクルを何度も繰り返す人々に対して、より大きな優位性をもたらします。システムは多くのことを学習するほど、より的確に機会を最適化します。問題は「マーケター側に新境地を切り開く準備があるのか?」ということです。
マーケターはしばしば「レガシー・テクノロジーこそが、パーソナライズされたカスタマー・エクスペリエンスの取り組みを阻む主要な障壁である」と言います。それと同時に、マーケターは「これらの取り組みは、消費者データから有用な洞察を導き出す能力を持っていない状況によっても阻害されている」と主張します。[実際問題、]これらの有用な洞察を導き出すことなしに、消費者セグメントを開発したり、各セグメントに合わせてコンテンツをパーソナライズしたりすることは不可能です。
AIマーケティングは「ゲームを変える」のです。
AIマーケティング・プラットフォームは、顧客のデータとアクティビティを「行動の根拠となるパーソナライズされた洞察」へと変換し、それがひいては、より的確でパーソナライズされたクロスチャネル型の消費者エンゲージメントにつながります。AIは、カスタマー・エクスペリエンスとパーソナライゼーションに対する現代のマーケターの熟達を促すことに加え、デジタルのパンくずを解釈して「手作業の勘や推測」を「自動化された意思決定」に置き換えることもできます。
今やマーケターは、利用可能なデータを有効活用して、生産的なカスタマー・エクスペリエンスを戦略的に提供することが可能になっており、それが最終的にはカスタマー・ジャーニーの個々のステップにおいて事業収益性の向上を推進します。
これはマーケティング自体も新しいモデル ── 設計・実行・測定のすべての側面と歩調を合わせてデータサイエンスが機能するモデル ── を採用する必要があることを意味します。最終的に、こうしたモデルがマーケティングの役割を「従来のファネルの構成要素である認知・獲得・ロイヤルティ」を超える範囲へと拡張し、「AIマーケティングがカスタマー・エンゲージメントを主導し、カスタマー・ジャーニー全体を通じて各種の重要な “決定的瞬間” に価値を追加する」というサイクルの無限ループを生み出すことになります。
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