モデリングの工業化で参加無料型ネットゲームが利益拡大
Wargaming社、1日に数テラバイトの顧客データを解釈できる規模にアナリティクス環境をスケールアップ
執筆: アリソン・ボーレン(Alison Bolen)、「SAS Insights」編集者
連日、数百万の人々が「World of Tanks」に参加し、仮想の戦場で戦車同士の対戦を楽しんでいますが、プレイヤーの多くは全く料金を支払っていません。それでも、このゲームの開発元であるWargaming社は、ゲーム業界で1年に数十億ドルの収益を上げています。
このゲーム業界の巨人は、どのようにして参加無料型のゲーム事業を採算化し、全く料金を支払わないプレイヤーも含め、あらゆる顧客の"プライスレス"な価値を把握できるようになったのでしょうか?その実現を支えている要因の1つはアナリティクスの活用です。
Wargaming社の目標は、あらゆるレベルのプレイヤーに優れたエクスペリエンスを提供することです。MacでもWindowsでも、コンソール版でもモバイル版でも、誰もが無料で参加することができ、もっと深く楽しみたいプレイヤーはゲーム内でアイテムを購入することもできます。
Wargaming社のゲームの中でも最多のプレイ回数を誇る「World of Tanks」には全世界で1億1,000万人のオンライン・ユーザーが登録しており、同社は全てのユーザーの全てのプレイについて、発射された全ての砲弾、戦車がとった全ての動きに関するデータを収集しています。Wargaming社のビジネス・インテリジェンス・データサービス部門責任者であるアレクサンダー・リャーボフ(Alexander Ryabov)氏は、次のように説明します。「毎日どの瞬間でも、約400万人が弊社のゲームをプレイしています。プレイヤーは複数のバトルをプレイし、各バトルでは複数のイベントが発生するため、そこで生成されるデータの総量は1日で数テラバイトに及びます。」
Wargaming社では、プレイヤーがゲームにログインした瞬間からログアウトするまでの間、データを収集し続けます。また、ゲーム内で交わされるチャットのログのほか、ソーシャルメディアやゲーム愛好者コミュニティで自社のゲームについて語られている内容も、収集・分析しています。こうしたデータを活用することで、顧客の維持、他のゲームのクロスセル、無料プレイヤーから課金ユーザーへのコンバージョン、「プレイヤー・ジャーニー」のモニタリング、ゲームが円滑に進まない地点の削減などを推進するためのモデルを実行できます。
総計すると、Wargaming社は毎月30テラバイト以上のデータを処理しています。データの98%はOracle Big Data Appliance上のHadoopに保管されており、Hadoop環境の管理にはClouderaを使用しています。データがHadoopに入った後は、SASのソリューションと連携するデータマートをETL開発者が作成し、この統合環境の中でモデルの作成と本番環境への展開が行われます。
アナリティクスのキャパシティを「1日1テラバイト」に拡張
Wargaming社では、複雑なモデルを開発・運用するだけでなく、そのモデルのロジックを他の数千のモデルで素早く再利用しています。
このビデオでは、同社のビジネス・インテリジェンス・データサービス部門責任者、アレクサンダー・リャーボフ(Alexander Ryabov)氏が、その方法を説明します。
ゲームプレイ体験と顧客向けオファーをアナリティクスで改善
Wargaming社ではデータ・サイエンティスト・チームがモデルを開発し、各モデルのスコアリング結果は、ゲーム内のイベント処理コンポーネントや会社のCRMシステムに送信されます。開発チームは各所から戻されたフィードバックを活用して、さらなるモデリングを行います。
例えば、開発チームは最近、ゲーム内の特定の場所でプレイヤーが次々に「戦死」することをデータから認識しました。「そこで、マップのバランスを調整するために、その場所に丘陵を作りました。弊社のデータ・サイエンティストはヒートマップを作成しており、特定の期間内に放たれた全ての砲撃をゲームマップ上で確認できるようになっています」(同氏)。
また開発チームは、プレイヤーがゲームの特定の要素を見逃していないかどうかを調べ、必要に応じて通知メッセージを送ることで、プレイヤーの次回のエクスペリエンスを向上させる目的にも、アナリティクスを活用しています。例えば、何らかの武器を入手できる場所や、前回のゲームで見落としていた場所をプレイヤーに教えることができます。
「こうしたメッセージは、プレイヤーが次にゲームをプレイしたときのエクスペリエンスを向上させるために役立ちます。これはほんの一例であり、適切なモデルを作成して本番環境に展開することで、同様のことを数多く実現することができます」(同氏)。
Wargaming社ではカスタマー・エクスペリエンスのさらなる向上を目指し、ソーシャルメディアや顧客との会話から収集したフィードバックに対してテキスト・アナリティクスを適用しています。「ソーシャルメディア・データに特定のフィルターをかけることで、プレイ体験全般に関するセンチメント分析を実行できるようになります。センチメント分析は、顧客サポートに関して利用することも、チャネル別に"オールスター・プレイヤー"を識別するために利用することもできます」(同氏)。
アナリティクスのキャパシティをMMOゲームに適した規模に拡張
Wargaming社は3年前にビジネス・インテリジェンス・プログラムを構築しましたが、それを境にオープンソース・テクノロジーに引き寄せられていきました。「詳細なデータ分析とデータマイニングが必要だと分かった後は、初期の"高度なアナリティクスによるモデリング"を開始し、R、Spark、Python、その他のあらゆるオープンソース・ソリューションを試していきました」(同氏)。
しかし、やがてチームは、そうした初期の取り組みを、数千種類のモデルや日々増え続けるデータ量に合わせてスケールアップすることは、極めて難しい取り組みであることに気付きました。同社におけるオープンソース・アナリティクス活用の初期段階について、リャーボフ氏は次のように振り返ります。「弊社にとっての最大の課題はスケーラビリティでした。データ・サイエンティストはモデルのコンセプトを思いつくと、データ・ラングリング(データのぶつけ合い)やデータ抽出を行いますが、規模が大きくなると、結果を得るまでの工程を自動化する必要が出てきます。当時は全てを手作業で行っており、それが開発者の大きな負担となっていたのです。」
同氏によると、チームが開発した初期のモデル群は現場実装までに3~6ヶ月ほどかかっていました。「全てのゲーム、全ての地域、全ての時間枠に対応するためには、数百、さらには数千のモデルを実行する必要があることに気付いた後は、そのレベルのスケーラビリティを実現できるソリューションを探し始めました。」
詳細なリサーチを経て、リャーボフ氏とチームはニーズを満たすソリューションを見つけました。「弊社の用途にはSAS Factory MinerとSAS Model Managerがパーフェクトでした。なぜなら、1つのモデルを時間枠別、地域別、製品別に何度も再利用できるからです。各モデルは実質的に同じモデルですが、ビジネスコンテクストに合わせて本番環境に展開し、一種の工業化された方法でモデルの実行、維持管理、改良を繰り返すことができます。私たちのリサーチでは、唯一の有効な選択肢がSASでした」(同氏)。
リャーボフ氏によると、現在では、データの準備とモデリング方法論の確立が済んでいれば、同一モデルから数千種類の派生モデルを作成する作業は担当者が1人で行えるようになっています。「これほど多くのモデルを手作業で作成・維持管理するには、10人から20人が必要になり、当然、人為的なミスも発生するでしょう。SASのような自動化された本番環境はミスをすることがありません。」
弊社のデータ・サイエンティスト・チームは才能あふれる人材の集団であり、どうすればプレイヤーの希望通りのものを適切なタイミングで提供できるかについて、実に革新的なアイデアを持っています。そして、総合的な満足度を高め、さらに優れたプレイヤー・エクスペリエンスを実現する取り組みには、SASが役立っています。 アレクサンダー・リャーボフ(Alex Ryabov) ビジネス・インテリジェンス・データサービス部門責任者 Wargaming社
モデリングを工業化するメリット
モデリングの自動化と工業化は、Wargaming社に多くのメリットをもたらしています。
- コーディング作業の大部分がポイント&クリック操作中心のワークフローに移行したことで、モデル作成の作業効率が向上
- モデルの開発と展開にかかる時間が60%短縮
- モデルの展開や自動化のためにデータウェアハウスを管理する必要性が80%軽減
全体的に見ると、Wargaming社のデータ・サイエンティストは、より多くのモデルをより短時間で作成・展開できるようになっており、それがひいては、収益の増大、リソース利用率の向上、機会費用の削減につながると期待されます。今後、市場が成長し、Wargaming社が他のプラットフォームへの多角化展開を続けていく中でも、既にモデリングの自動化と工業化に成功している同社は、より多くのモデルの実行、より多くの顧客の維持、より多くの顧客の獲得、より複雑なアナリティクスの適用といった取り組みの全てを、同一のアナリティクス・プラットフォーム内で遂行していくことができるでしょう。
最も重要な点は、プレイヤーにもメリットがあることです。「弊社のデータ・サイエンティスト・チームは才能あふれる人材の集団であり、どうすればプレイヤーの希望通りのものを適切なタイミングで提供できるかについて、実に革新的なアイデアを持っています。そして、総合的な満足度を高め、さらに優れたプレイヤー・エクスペリエンスを実現する取り組みには、SASが役立っています」(リャーボフ氏)。
また、ゲームのプレイ体験を改善する取り組みには、お金をかけてゲームをもっと楽しみたいと考える長期プレイヤーを増やす効果も期待できます。「当社の創業者であるビクトル・キースリ(Victor Kislyi)が言うように、『弊社の目標は究極的にはプレイヤーにハッピーになってもらうことです』です。プレイヤーがハッピーなら、他のことは全て何とかなるものです」(リャーボフ氏)。
オープン・エコシステムにおいてSASを利用する利点
重要な企業資産である分析モデルのもたらすビジネス効果を最大化するために、SASとオープンソースのバランスをどう最適化すればよいのかご確認ください。
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