信用リスク管理、それが答えです

貸付が増加(ただし滞納率も上昇)する状況下で注力すべき領域とは?

ロジャー・ラング(Roger Lang)、プリンシパル・プロダクト・マーケティング・コンサルタント、SAS

銀行は貸付業務に再び注力しつつあり、融資量は金融危機前の水準を回復しています。しかし、滞納率も急上昇しており、信用ポートフォリオ管理の改善が急務となっています。

銀行は貸付業務が再び活況を呈していることで、2008年以降には見られなかった水準まで業績を回復しています。ブレグジット(BREXIT: 英国のEU離脱)、イタリアの銀行危機、アジアと欧州における信用面の課題、変動しやすい市場構造はいずれも、銀行が信用ポートフォリオ管理を改善する必要に迫られていることの兆候であり、それを怠れば苦境に逆戻りするでしょう。

 

Bank of Americaの2015年度の年次レポートにおいて、会長兼CEOのブライアン・モイニハン(Brian Moynihan)氏は、いくつかの領域の成長を指摘しました(カッコ内は1ドル110円換算)。

  • コア融資残高が750億ドル(8兆2,500億円)増加
  • 中小企業向けの新規与信は107億ドル(1兆1,770億円)
  • 数百万枚のクレジットカードを新規発行
  • 住宅ローンは700億ドル(7兆7,000億円)

こうしたコア戦略への回帰は欧州でも同様に見られます。ただし欧州の場合は、貸付の増加に伴って商工融資の滞納の増加率も上昇する傾向にあります。
ValueBridge Advisors社のブライアン・バルニー(Brian Barnier)氏は、2016年9月にFed Dashboard & Fundamentalsに寄稿した経済レポートにおいて、2016年第2四半期の滞納率が1.6%であり、2015年第1四半期の0.6%から上昇した一方で、欧州では商工融資の滞納率も歴史的な高さであると指摘しています。

BurntOak Capital社のシニア・ディレクターであるガブリエル・デイビッド(Gabriel David)氏(各国の中央銀行に対するアドバイザーとしても活動)が指摘しているように、滞納は昨今の融資量増加と部分的に連動しており、また、経済や金融市場における外部要因(例:過去に減損済みの資産、システミックな経済課題)と関連している可能性もあります。

滞納率の上昇を引き起こした要因については、銀行が想定済みだったものもあれば、予見できなかったものもありますが、いずれにしても、貸付の増加に伴って滞納率も上昇してきたことは明らかです。

リスクを全行規模で把握し、バランスシート全体にわたって資本配分を最適化するためには、個々の地域や事業ラインが保持している詳細データを会社レベルの分析に利用できるようにしなければなりません。

信用ポートフォリオ・リスク管理に対する影響

貸付というコアビジネスへの注力が増大し、滞納率の上昇が続いている状況を踏まえると、銀行には、信用リスク管理のための、より優れたプロセスとアナリティクスが必要です。融資の申請受付と処理を最適化および統制するためには、引受、意思決定、ワークフローに関するアナリティクスが必要です。滞納が生じた融資については、潜在的な損失を推定するために、および、回収リソースの最適な割り当て方法を判断するために、より的確なモデルが必要になります。現状では、信用ポートフォリオ管理に関連するミドルオフィス/バックオフィス・プロセス(データ集計からスプレッドシートを用いた分析まで)の多くは、時間がかかり、コストがかさみ、融資量の増加に応じた処理規模の拡大も難しいのが実情です。これらの手作業のプロセスをめぐる問題に加え、規制要件を満たすために必要となる多額の追加支出という課題もあります。したがって、信用融資ポートフォリオに関するリスクを管理するためのプロセスについては、各ステップで最大限のコスト削減を達成できるように、合理化/効率化と高度な自動化を徹底しなければなりません。

 この課題の解決に役立つソリューションは、3種類の主要コンポーネントから構成されることになります。

  • 事業ラインや地域を横断してデータを集計した上で意思決定支援を提供する機能
  • 信用モデルリスク管理向けのプラットフォーム
  • 複数のストレステストをオンデマンドで実行できる機能

データに関する課題

信用リスク管理の担当者は、全てのポートフォリオを対象にしてリスクを全行規模で把握する必要があり、また、信用に関する意思決定をサポートするための情報も必要とします。これを実現するためには、事業ラインや地域を横断してデータを集計・分析しなければなりません。リスクを全行規模で把握し、バランスシート全体にわたって資本配分を最適化するためには、個々の地域や事業ラインが保持している詳細データを会社レベルの分析に利用できるようにしなければなりません。リスクと利益圧力がともに増大し続けている環境では、ワークフローを自動化することと、分析とレポーティングに必要な極めて膨大なデータの管理を合理化/効率化することが、信用リスク管理担当者にとって必要不可欠です。

モデルリスク管理

信用リスク・モデリングを融資ポートフォリオ全体(商業融資から、中小企業向け融資、住宅ローンに至るまで)を横断して行う取り組みは、小売業界におけるクレジット・スコアリング手法の進化とよく似た展開を見せ始めています。この手法には、従来型データと非構造化データの両方から成る大規模なセットを分析するための、より複雑なシナリオに基づくモデルの活用が含まれます。

信用リスク・モデリングでは、与信の申請受付から分析、レポーティング、サービス提供、回収に至るまでの全てのプロセスを、自動化および合理化されたワークフローの中で統合する必要があります。モデリングの自動化は、コストがかさむ手作業集約型プロセスの削減にも役立ちます。

モデルの数が増え、複雑性が高まり、利用範囲が全行規模に広がるほど、モデル・インベントリのガバナンスを自動化および一元管理化する必要性が高まります。モデル・ガバナンスは、防衛線や監督機能を配備するだけで完了する取り組みではなく、そこにはモデル・ライフサイクル全体を通じてソフトウェア機能を確保・調整することも含まれます。また、モデル・ガバナンスは、適切に連携調整された信用モデリング・プロセスを求める重要なビジネスニーズを満たす手段であるというだけでなく、監査を目的とした特定のガイダンスに伴う規制要件の要素でもあります(例えば米連邦準備制度(FRB)は、SR 11-7というガイダンスの下で監査を実施しています。EUなど世界の他の地域における銀行規制当局の間でも、これをベストプラクティスと考える傾向が強まっています)。

ストレステスト

システムの合理化/効率化やモデルの自動化がビジネスにもたらす重要なメリットには、よりタイムリーにストレステストを実行できるようになる、ということも含まれます。その結果、経営陣は様々な事象にニア・リアルタイムで反応したり、新たに特定したリスクへの対応策を最大限の迅速さで実施したりすることが可能になります。JPMorgan ChaseのCEO、ジェームズ・ダイモン(James "Jamie" Dimon)氏は、同行の2015年度の年次レポートの中で、何千件ものストレステストを実行できることは、資本利益率の改善やバランスシートの耐性強化に関連した重要な能力である、と述べています。

今後の道筋

信用ポートフォリオ管理の担当者の多くは、「サイロ化した(縦割り管理されている)システム群を横断して効果的にリスクコストを管理するために必要な手順、統制、与信モデルは、適切なツールなしでは導入できない」という見解に同意しています。分析対象となるデータの量は既に爆発的に増大していますが、ソフトウェアおよびテクノロジーの進化と、機能強化された信用リスク・アナリティクス手法を組み合わせれば、信用ポートフォリオ管理担当者が ─ 従来型および非構造化データソースから収集された大量かつ詳細なデータセットを分析するために ─ 必要としているツールは実現可能です。こうした機能があれば、「銀行が再び貸付戦略に注力し、融資ポートフォリオの規模が拡大するにつれて、ますます高まっていく債務不履行リスク」に対処するための態勢を強化することができるでしょう。

信用ポートフォリオ管理担当者にとっての今後の道筋は、銀行がコストの合理化、リスクの軽減、資本配分の最適化に関して歩んでいく継続的改善の道のりの一部です。そして、それこそが、強化が進む規制環境の中で収益性を維持するために銀行が進むべき唯一の道のりです。


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