データとカスタマー・ジャーニーをリンクさせることの重要性

執筆:リサ・ロフティス(Lisa Loftis)、SAS Best Practices部門


カスタマー・エクスペリエンス管理は目新しい領域ではありません。ほぼ20年にわたる歴史があります。

私が共著者の一人として関わった『Building the Customer Centric Enterprise』(顧客中心型エンタープライズの構築) という書籍(2000年刊行)の中で、私たちは「顧客主導の関係(Customer Managed Relationships: CMR)」という新しい言葉を造語しました。そこに託したのは「自身のカスタマー・ジャーニーを主体的にコントロールしたいと考える顧客を手助けすることこそが、企業の仕事である」という考え方です。その数年後、私はこのテーマに特化した書籍を(私自身としては初めて)見つけて目を通しました。それはベルント・シュミット(Bernd Schmitt)氏の『Customer Experience Management; A Revolutionary Approach to Connecting with Your Customers』(カスタマー・エクスペリエンス・マネージメント:顧客とつながる革新的アプローチ) という書籍(2003年刊行)でした。

私は先日、このテーマに関するホワイトペーパー『「決定的瞬間」という機会の最大化:リアルタイムの有意義な顧客対応の創出に向けて』を新たに執筆しました。同書では、まず、パーミッション・マーケティングから「顧客の決定的瞬間」に至る進化の道筋を振り返っています。その上で、顧客との持続的な関係の醸成を図るために、収集したデータを活用して「個人的なコンテクスト」の理解を深める方法を論じています。この記事を読んで関心が深まった方は、ぜひ以下のリンクからホワイトペーパーに目を通してみてください。

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今まさに進行しつつある革命

首尾一貫した形でカスタマー・エクスペリエンスを管理し、収益拡大や株価上昇といった幅広いメリットを報告できている企業は確かに存在しますが、私たちの多くはその中に含まれていません。

しかし幸いなことに、企業は今、そうした当初からのビジョンを現実化できる状況に置かれています。なぜなら、デジタル・テクノロジーにおけるイノベーションによって、さまざまなデータが爆発的に増加しているからです。こうしたデータは、顧客をかつてないほど徹底的に理解するために役立ち、カスタマー・ジャーニーとの間で相互にマッピングすることが可能であり、そして最終的には、カスタマー・エクスペリエンスの領域においてマーケターが切望しているブレイクスルーの実現を促します。

人生とは、終わりのない旅である。

データ + カスタマー・ジャーニー = 俊敏性の向上

2021年にはスマートフォンのユーザーは61億人、インターネット接続デバイスは280億台に達すると見込まれており、そこから生じるデータの取得、データ探索、カスタマー・ジャーニーに寄り添って顧客に働きかけるためのデータ活用といったアナリティクスによる取り組みは、マーケティングの必達要件となるでしょう。

適切な瞬間に配信されるリアルタイムでのコミュニケーションには、顧客に対し「私たちは貴方を知っています。貴方の声に耳を傾けています。貴方のロイヤルティに報います。貴方の積極的な関与を歓迎します。貴方のジャーニーに寄り添います」という言外のメッセージを伝える効果があります。上記のような大量のデータを適切に利用すれば、企業がカスタマー・ジャーニー対策に取り組む際に生じる組織運営上の課題やデータ問題のいくつかを克服することができます。

最近実施されたForbes Insights調査(英語版)では、複数チャネルをまたぐ顧客行動を十分に「見える化」できている企業はごく少数であることが判明しました。データの少なくとも75%を「見える化」できていると回答した企業も、全体の3分の1に過ぎません。ただし、データ重視型のエクスペリエンス管理ソリューションを利用中の企業リーダーたちが重要視しているのは、意思決定の迅速化(67%)、全社共通の顧客ビューの包括性の向上(51%)、マネージャーと従業員の自身の意思決定に対する確信の向上(49%)、部門間のコラボレーションの向上(36%)といった導入効果です。

重要なのはコンテクスト

上記のような豊富なデータを利用して、顧客との間に生じる個々のインタラクション(対話や情報のやりとり)の意味合いをそれぞれのコンテクストに即して理解することには、現実的なメリットがあります。Oxford Dictionaryでは、コンテクスト(context)とは「事象、状態、あるいは思想の背景(setting)を形成する周辺状況(circumstances)。また、その観点において完全に理解および評価することが可能なもの」と定義されています。

コンテクストを理解するために必要なデータは、マーケティング部門の担当領域にとどまらず、顧客行動のあらゆる面にわたって広範に存在しています。データのカテゴリーの1つには、購入履歴、取引履歴、顧客の基本属性(デモグラフィックス)、オンサイトの対応履歴(コールセンター、店舗、支店)などが含まれます。これらは最も一般的に使われるデータであり、「顧客関係のコンテクスト」を明らかにします。これは例えば「この顧客は普段、自社とどのような取引や対話をしているのか?」、「そうした振る舞いから推測できる将来の行動はどのようなものか?」といった事項です。

2つめのカテゴリーには、ソーシャルメディア活動、ネットワーク、クレーム、電子メール、顧客対応における生の声、市場調査、サイコグラフィックス(心理学的属性)情報などが含まれます。この種のデータは「個人的なコンテクスト」を指し示すものであり、顧客のインフルエンサーとしての側面や、より現実的な嗜好性を明らかにします。また、顧客の価値観に合わせて適切なコンテンツ、チャネル、商品をマッチングする目的にも役立ちます。

最後のカテゴリーには、Webやモバイルでの活動、位置情報とGPSサービス、ビーコン(無線信号)情報やセンサー情報などが含まれます。この種のデータをリアルタイムで収集・利用すれば、任意の瞬間における顧客行動にもとづき「状況的なコンテクスト」を明らかにすることができます。このデータは、自社が提供できるものの中に、顧客が必要としているものがあるかどうかを判断する目的に役立ちます。

データ重視型のエクスペリエンス管理というアプローチから多大なメリットを引き出せるかどうかは、以上のようなコンテクストに関する理解にもとづき、カスタマー・ジャーニーにおける適切なタッチポイントを見極め、その瞬間に適したコミュニケーションを実行できるかどうかにかかっているのです。

 

リサ・ロフティス(Lisa Loftis)は、SAS Best Practicesチームのソートリーダー。共著した『Building the Customer Centric Enterprise』では、マーケティングのモダナイゼーションを重点的に担当。連絡先:Lisa.Loftis@sas.com