顧客データ・プラットフォーム(CDP): 概要と重要性
執筆: リサ・ロフティス(Lisa Loftis)、SAS Customer Intelligence部門
顧客データ・プラットフォーム(Customer Data Platform; CDP)は、CDP Instituteによって公式に「他のシステムからも利用しやすい永続的で統一された顧客データベースを作成するパッケージ・ソフトウェア」と定義されています。
SAS® がCDPとそれを超える取り組みを支援する方法
SASはCDPでしょうか? 答えは「イエス」ですが、それを超える側面も多々あります。SASのCDPソリューションは、標準装備の予測的マーケティング・アナリティクス、インバウンド/アウトバウンド・チャネルにまたがるコンテキストに即した顧客エンゲージメント、一人ひとりの唯一無二のカスタマー・ジャーニーに合わせた魅力的なカスタマー・エクスペリエンスなど、従来のCDPを超えたレベルの機能により、顧客理解の深化をもたらします。詳細をぜひご確認ください。
顧客データ・プラットフォーム: CDPに関するニーズの推進要因は何か?
今日、マーケターの世界は極めて複雑化しており、顧客の期待も高度化しています。ロイヤルティを勝ち取るのは、さまざまなチャネル/デバイスにまたがり、従来のマーケティングを超越する唯一無二のパーソナライズされたコミュニケーションを用いて、リアルタイムで「顧客の決定的瞬間」に反応できる企業です。とはいえ、平均的なマーケターは、28もの異なるマーケティング・テクノロジー・ベンダーのソフトウェア/ソリューションと、無数のチャネル/デバイス/内部アプリケーションからの増え続けるデータを取り扱っています。これらの分散したデータのすべてを整理・整形し、それに基づいて素早く行動することは、これまで以上に難しくなりつつあります。
デジタル化とeコマースの成長が急加速している状況が、既存のデータ問題を激化させています。また、この状況は、顧客エンゲージメント・メカニズムを新しいハイブリッド型の物理/デジタル環境に適応させる取り組みへと、企業を後押ししています。カスタマー・エクスペリエンスの将来に関するFuturum Research社の調査研究によると、企業の66%が顧客の行動と習慣に関するオンライン追跡の取り組みを加速しています。また、73%は「新しいエンゲージメント・モデルにはリアルタイムのデータ収集とデータ分析が必要不可欠になる」という見解に同意しています。ですから、CDPがこれほどの注目を集めていることには何の不思議もありません。
CDPには複数の限界があります。多くの企業の場合、インテリジェントなパーソナライゼーションと自動配信を実現するためには、顧客データ活用の在り方を、CDPを超えたレベルに強化・拡張する必要が生じます。
顧客データ・プラットフォーム: 動作の仕組み
基本的なCDPには4つの主要機能があります。
- Data Ingestion - データの取り込み: CDPは複数のソース(例:トランザクション・システム、Web行動、コールセンター、人口統計学的属性、POS)からファースト・パーティの顧客データを抜き出します。
- Identity management - アイデンティティ管理(ID管理/同一性管理): CDPは複数のチャネルにまたがり顧客の同一性を解決します。ほとんどのCDPは、インバウンド・データによって提供される識別子を用いて、決定論的マッチングやプロファイル・スティッチングといった手法を適用します。CDPは永続的な顧客識別子を作成および維持管理します。
- Segmentation - セグメンテーション: CDPは、マーケターがCDP内の統一データを用いて普遍的なオムニチャネル型の対象者セグメンテーションを作成および維持管理できるようにします。
- Data provision/activation - データのプロビジョニング/活用: CDPは、CDP内で生成された洞察と統一顧客プロファイルの活用を促進します。これは他のマーケティング・テクノロジーに対するコネクタやAPIを提供することで実現されます。
顧客データ・プラットフォーム: 知っておくべきこと
最近、CDPの人気が高まっていますが、これにより市場に相当な規模の混乱が生じています。CDPソリューションを提供するベンダーは、タグ管理、デジタル・モニタリング、キャンペーン管理、Webアナリティクス、データ統合といった多様な領域に由来しています。また、数は少なめですが、CDP専業を謳っているベンダー群も存在します。そうしたベンダーは、例えばスーパーチャージ型マスターデータ管理ソリューションのようなスタンドアロン型の顧客データベース機能を推進しています。これらの製品の多くは機能性が異なるため、比較して評価することは困難です。
マーケターがCDPに惹きつけられてきた背景には極めて現実的な諸問題が存在するため、それらの問題を解決するという良い面は重要です。しかし、マーケティング・テクノロジー・アナリストの間では「これらの機能は、CDPがスタンドアロン型のテクノロジー・ソリューションであり続けるのに十分なほどには、マーケターの利用目的を満たさない」という確信が広まっています。むしろ、多くのアナリストは「CDPは単純に、大規模なエンタープライズ対応のマーケティング・ソリューション・スイート(例:マルチチャネル・マーケティング・ハブやリアルタイム・インタラクション・エンジン)の標準的な構成要素となるだろう」と確信しています。企業にとって、CDPの選択肢を慎重に検討することは極めて重要です。マーケターは、評価対象のCDPソリューションが実際に何をもたらすのかを理解した上で、自社の具体的なニーズの多くが現在および将来にわたり、どのように満たされるのかを判断する必要があります。
確立されたデータインフラ:
データインフラやデータ・アーキテクチャを確立済みの組織の場合、マーケティング活動のためにすべての顧客データをCDPにインポートしようとすると、多大な実装作業とデータ同期コストが発生しかねません。SASでは、これを「リフト&シフト問題」と呼んでいます。この問題を回避したい企業は、「物理データを単一データベースに移動する必要がなく、基本的なCDP機能(ID管理、セグメンテーション、データ・プロビジョニング)のみを提供するソリューション」を探す必要があるかもしれません。そうしたソリューションは存在しますが、それらを探す際はCDP専業ベンダー以外も調査する必要があるでしょう。
アナリティクス駆動型のデータ活用:
CDPは対象者のセグメンテーションを可能にしますが、そのコア機能は典型的にはルールベースのアプローチのみをサポートしています。そうした環境では、企業が必要とするユースケースに「アルゴリズムに基づくセグメンテーションの適用」が加わると、それを前提とする取り組み(例:リアルタイムの意思決定、各種アクションのトリガー、ネクストベストオファーの実行など)は高い確率で破綻します。いくつかのCDPベンダーはコアCDP機能を補完するべくアナリティクス機能を開発していますが、そうした機能の洗練度は実にまちまちです。過去のコアCDP機能を拡張する必要がある場合は、エンタープライズ向けマーケティング・スイートのような目的特化型のツールに目を向ける方が得策かもれません。そうしたスイートは、CDPについては基本的な機能のみを提供しますが、より広範囲にわたるジャーニー・オーケーストレーション(連携調整)やアナリティクス活動のために設計されています。
リアルタイムのID管理:
すべてのデバイスやデジタルチャネルにまたがって顧客行動を追跡することや、それらの行動をリアルタイムでオフライン・データと統合することは、多くのCDPソリューションの対象範囲外です。自社のニーズに「オンライン・イベントをリアルタイムで捕捉すること」や「プロファイルやオフラインの顧客セグメントを動的に更新すること」が含まれている場合は、検討中のCDPを詳しく調べ、これらを実行できるかどうか確認するべきです。
マーケティング以外の領域での導入メリット:
CDPの中核的な特徴は、統一された顧客データを他のマーケティング・アプリケーションに提供することです。しかし、CDPに関して良く耳にする不満は、他のシステムとの統合が宣伝内容よりも複雑で時間がかかる、というものです。カスタマー・エクスペリエンス施策がマーケティングの枠を超え、顧客に影響を与える他の領域(営業、サービス、不正防止、リスク管理)にまで広がっている場合、この問題は拡大します。これらの領域ではいずれも、顧客対応活動に対して「アナリティクス駆動型のコンテキストに即したパーソナライゼーション」を適用する必要があり、CDPはそれに必要な顧客データを取得するための論理的な場所です。こうした状況では、リアルタイムのイベント検知、アナリティクス駆動型の意思決定、クロスデバイス型のIDマッチングなどに関するニーズは、マーケティング以外の領域にも広がることになります。
シームレスな統合により、CDPを超えたレベルのメリットを実現
図2(上の図)は、スタンドアロン型のCDPを超えたレベルのメリットを実現する「シームレスな統合」の様子を描いています。それぞれの要素を詳しく見ていきましょう。
ハイブリッド型のマーケティング・アーキテクチャ: 初歩的なID管理を超越
顧客プロファイルに貢献する多様かつ大量のデータソースには、強固なID管理戦略が必要不可欠です。関連の各種機能は、オンラインのユーザー行動(ページ、画面、フィールド操作)について詳細かつコンテキスト化された顧客レベルの情報を収集できるようにする必要があるほか、オンライン/オフラインの情報(CRM、人口統計学的属性、過去の行動、コールセンターでのインタラクションなど)を単一の統一プロファイルに取りまとめることを可能にする必要もあります。とりわけ、ユーザー行動の変化に応じてリアルタイムで動的にプロファイルを更新する機能は重要です。
リアルタイムのデジタルイベント検知: シンプルなデータ取り込みを超越
消費者は複数のデジタルデバイスやデジタルチャネル ── その多くでは即座の応答が求められます ── を利用しているため、イベントの発生時にそれらを捕捉する必要があります。捕捉したイベントに基づきリアルタイムで行動すること(例:意思決定、各種アクションのトリガー、ネクストベストオファーの実行など)も極めて重要です。「即時性に関するニーズへの対応」と「データ・プライバシーへのフォーカスの強化」を両立させるためには、必要なすべてのデータをリアルタイムで収集するためのカスマイズ可能なイベントが不可欠です。関連のすべてのプロセスで、重要な個人識別可能情報(personally identifiable information: PII)を識別する必要もあります(それらの情報は捕捉するべきではありません)。この領域のソリューションは、オフラインの顧客情報を追加/結合/削除するためのAPI群と、機密データをクラウド上で暗号化する機能を用いて、強力なデジタル保護(digital guardianship)を提供するべきです。
AIを活用したジャーニー・オーケストレーション: セグメンテーションを超越
マーケターにとっての真のROI(投資対効果)は、統一された顧客データを活用することから生まれます。そのためには、AIを活用して「全チャネル横断型かつジャスト・タイミング型のジャーニー・オーケストレーション」を実現する必要があります。包括的なアナリティクス、ネクストベストオファー機能、リアルタイムの意思決定、さらには、その他の重要なマーケティング業務機能(計画、テスト、アトリビューション分析など)とのシームレスな統合により、洞察が強化され、洞察から行動までの時間が短縮されることになります。
拡張されたカスタマー・エクスペリエンス活動: マーケティングを超越
カスタマー・エクスペリエンスの管理は、マーケティング部門だけに限定される取り組みではありません。フルスケールのジャーニー管理は、顧客に対応する活動や顧客に影響が及ぶ活動(例:不正検知、価格設定、与信、債権回収など)のすべてを含んでいなければなりません。これらの業務機能はいずれも、統一された顧客プロファイルを必要とし、洗練されたアナリティクス、リアルタイムの意思決定、デジタルイベントの即時捕捉からメリットを享受します。リアルタイム意思決定エンジンとの容易な統合を実現するソリューションを用いてCDP機能をマーケティング以外の領域にまで拡張することは、現在および将来のカスタマー・エクスペリエンスにとって極めて重要です。
カスタマー・ジャーニーのパーソナライズ
この短いビデオでは、パワフルなAI機能を用いてパーソナライズされたエクスペリエンスとレコメンデーションを提供する取り組みをSAS Customer Intelligence 360がどのように支援するかが分かります。ぜひご覧ください。
お勧めの関連資料
- データとカスタマー・ジャーニーをリンクさせることの重要性顧客の将来の行動を予測したければ、過去の行動履歴を調べるのが得策です。この取り組みの成否は、手元にある豊富な顧客データを存分に活用できるかどうかにかかっています。
- SAS Customer Intelligence ROIという切り口でマーケティングを最適化する組織がさまざまな取り組みによって蓄積した膨大な情報を分析し、マーケティングを最適化すると言えば、キャンペーンコストの削減やターゲティングの精度向上が真っ先に思い浮かぶかもしれません。それらも大切な業務改革ですが、その先にある本来の目的を見失ってはいないでしょうか。
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