IoTデータへの機械学習の適用

機械学習はIoTプロジェクトの具体化に役立つ?

執筆: ミカ・タンスカネン(Mika Tanskanen)、製造業界担当コンサルタント、SAS Finland


「自律的に学習するインテリジェントなマシン」というアイデアは、何十年も前から人類を魅了してきました。筆者は最初のコンピューターとして今や伝説的なCommodore VIC-20を購入したときのことが忘れられません。

コンピューターを祖母に披露したところ、祖母は開口一番、「この機械に尋ねたいことがあるんだけどね……」と言ったのでした。

祖母が時代を先取りしすぎていたのは明らかです。VIC-20の機能性にケチをつけるわけではありませんが、その当時、私が生まれ育ったフィンランド東部では、例えばニューロ・ロボティクスを日常生活の中で話題にするのは時期尚早でした。

なにしろ、AppleのSiriはもちろん、音声認識テクノロジーにもとづく他のどのようなアシスタント機能が登場するよりも、ずっと前の時代のことです。当時はコンピューター同士を接続するインターネットもありません。また、本体の記憶容量はカセットテープ1本にも及びませんでした(訳注:当時のコンピューターは外部記憶装置としてカセット・レコーダーを使っていた)。

現代のテクノロジーが実現しているストレージ容量やさまざまな機能は、私の若い頃には何億光年も未来の夢のまた夢でした。それが今では、ほぼ誰もが利用できるほど安価に手に入るようになっています。

機械学習の背後にある哲学とは、アルゴリズム自体が利用可能なデータを活用しながら継続的に学習できるように、分析モデルの作成を自動化することです。

VIC-20から機械学習までの歩み

人工知能(AI)機械学習は、目新しいイノベーションではありません。1959年には、米国の計算幾科学者であるアーサー・サミュエル(Arthur Samuel)が、機械学習の概念を「コンピューターがプログラミングで具体的に指示されなくても動作の仕方を学習できる機能」と定義しています。もちろん、概念の定義から日常生活への導入までに長い年月がかかるのは珍しいことではありません。今日、機械学習が現実となっているのは、学習を可能にする大規模なデータソース、情報を1秒未満で処理するコンピューティング・パワー、信頼性が飛躍的に向上し続けているアルゴリズムなど、数多くの要因が総合された結果です。

機械学習は、望ましい結果が既知の場合(教師あり学習)や、データに関する情報が事前に存在しない場合(教師なし学習)に適用できるほか、モデルと環境の相互作用の結果として学習が行われる場合(強化学習)にも適用することができます。

機械学習の背後にある哲学とは、アルゴリズム自体が利用可能なデータを活用しながら継続的に学習できるように、分析モデルの作成を自動化することです。

モデルを継続的に進化させることで、結果の適切性は向上し、人間が介入する必要性は減っていきます。そのため、このような進化を重ねたモデルは、信頼性の高い再現可能な判断を自動的に生み出すために利用できます。

機械学習の日常的な用途の例としては、オンライン・サービスによるレコメンデーション(Amazon、Netflix)や、銀行における信用格付の自動化が挙げられます。

では、機械学習は具体的にどこまで進化しているのでしょうか? 愛車に「職場まで」と話しかけるのはまだ無理ですが、これが実現する日はそう遠くないでしょう。

今では、Googleの自動運転車を話題にしても誰も驚きません。実際、現代のクルマが既に備えている高度な機能(音声認識、車間距離適応走行制御、車線逸脱警告、自動経路案内、自動駐車支援など)を組み合わせれば、完全自律走行カーまであと少しです。

機械学習に関して最も大きな障壁の1つは法整備でしょう。既に利用できるようになっているテクノロジーに対応できるように、現行の法体系を見直す必要があります。機械が自ら法廷に立って無実を訴える日は恐らく来ないと思いますが、自律的に判断できる機械にどこまでの権限を与えるかについて、人間の側で検討する必要があることは間違いありません。

機械学習とIoTの融合

工業界では機械学習への関心が急速に高まっていますが、これはモノのインターネット(IoT)が大々的に宣伝されているおかげです。既に多くの企業がIoTを戦略上の重要領域と位置付けており、事業運営におけるIoT活用の可能性を探るためのパイロット・プロジェクトを立ち上げた企業も少なくありません。

その結果、ほぼ全てのITベンダーが突如として、IoTに関するプラットフォームやコンサルティング・サービスを発表するようになっています。

しかし、IoTから経済的効果を上げるのは容易ではありません。具体的な目標がなければ混乱するだけです。デジタル化とIoTの進展を受け、購買側と販売側の双方に新たな前提条件が求められるようになっています。しかし多くの企業は、IoT戦略の導入に伴って変化することになる領域を明確に判断できていないのが現状です。

言い換えると、明確に定義された具体的な中間目標が欠けているのです。例えば、工業界の企業は日常的に大量のデータを生み出しています。しかしながら、全体的な傾向としては、そうしたデータを体系的に収集・保管・分析した上で、業務プロセスの効率化やその他の目標の達成に役立てることはできていません。

しかも、IoTソリューションを用いて事業運営に手堅くプラス効果をもたらす方法について、クライアントに具体的なアドバイスができるベンダーは多くありません。クラウドベースのIoTプラットフォームのメリットを語るだけでは不十分です。

ガートナー社によると、フィンランドでは、IoTに関する議論がビジネス目標ではなく技術用語を中心に展開されてしまうという落とし穴にハマりつつあるとのことです。クライアント側は、革新的なアイデアを採用し、変化を受け入れる勇気を持つ必要があります。逆にベンダー側では、IoTの活用で企業が何を実現できるのかをもっと具体的に説明するスキルを磨き、ビジネスチャンスの特定と現実的な計画の策定を積極的に支援していく必要があります。

もしベンダーが、基本的にあらゆる課題を単一のアナリティクス手法で解決しようとするソリューションを提案してきたとしたら、要警戒です。

IoTデータから答えが見つかった実例

少し前のことですが、私の同僚がエネルギー業界の会社から支援要請を受けました。新しい施設がタービンの重大な故障によって深刻な操業不全に陥っていたのです。

その会社はサードパーティに問題の解決を依頼済みでしたが、作業開始から半年が過ぎても、4名のコンサルタントからなるチームが実施したのはパス分析のみで、状況はほとんど改善しませんでした。

問題の施設では、機械設備、保守整備、生産プロセスに関する大量のデータに加え、タイムスタンプ付きの気象情報も収集していました。これほどのデータが利用できたにもかかわらず、そこから誰一人として有意義な情報を導き出すことができなかったのです。

私たちは、そうした停滞状況を打破するため、まずはアナリティクス・コンポーネントの追加導入をお手伝いしました。そして、アナリティクス手法を用いて全てのデータを精査していったところ、生産プロセスの途中に、主として酸素供給の最適化に関連した根本的な問題が生じていることが判明したのです。それを解決して以降、この施設では大きな問題は生じていません。

これは、(もともと高い効率を誇る工業用システムの場合でも、)さらに高いレベルの効率を達成するために機械学習を活用できるという典型的な例です。適切なアルゴリズムがあれば、システムは生産・製造に関する社内外のあらゆる要因の認識、利用や消費の最適化、生産・製造プロセス全体の効率改善について、徐々に学習していくことができます。

これはIoT活用の優れた実例の1つにすぎません。その他の事例については、モノのインターネット(IoT)に関する3業種の導入事例をご覧ください。

この記事は当初、SASのHidden Insightsブログにフィンランド語で掲載されました。


ミカ・タンスカネン(Mika Tanskanen)は、フィンランド工業界の企業を担当し、アナリティクスを活用して事業運営を高度化する方法をクライアントと協働で追求しています。彼は正真正銘の機械マニアでもあり、休みの日には、40年モノのオートバイの整備やカスタマイズなどに熱中しています。

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