大正大学
一貫した学生支援のためのデータ分析にSAS® Visual Analyticsを活用
大正大学は2017年、「大正大学エンロールメント・マネジメント研究所」を開設した。同研究所では、入学から卒業後まで学生との関係性をマネジメントするEM(Enrollment Management)や、大学の意思決定を支援するデータの収集・蓄積・分析・共有を行うIR(Institutional Research)に関する研究を行っている。当然ながら学内でのEMIRの実践にも積極的に取り組んでおり、そこで扱う膨大なデータの可視化や分析には、SAS製品が採用されている。
SAS Viyaになってからは、オンプレの頃よりも動きが良くなりました。操作してから結果が出るまでのラグがなくなったことで、時間とコストの削減につながっています。
福島 真司 氏 (左)
エンロールメント・マネジメント研究所(EMIR研)所長 地域創生学部 地域創生学科 教授
和田 浩行 氏 (右)
理事長室法人秘書課(IR担当) エンロールメント・マネジメント研究所研究員
サイロ化したガラパゴスシステムが、データ収集の障壁に
大正大学地域創生学部の教授であり、エンロールメント・マネジメント研究所の所長を務める福島真司氏は、現在の大学マネジメントの課題を、次のように語る。
「多くの教育機関では部署間の壁が高くてサイロ化されているという状況があります。IRについても、『教学IR』、『財務IR』のように、入試、教学、就職等の部署単位でデータ分析をし、それをもとに各部署単位で事業改善を検討することが当たり前です」
だが、ますます少子化が進む中、継続的に入学者を獲得するには、全学が一丸とならなければならない。各学生の入学前の大学選択から、入学後、在学中、そして卒業後に至るまでの様々な行動や意識をデータとして取得し、それを分析し、その結果を学内で共有しなければ、精度の高い意思決定を行えないからだ。そこで、部署横断的に学生との関係性をマネジメントするためにEMIRを実践することは、「少子化の中に活路を見出す手段でもある」と、福島氏は言う。
問題となるのは、どのようなシステムを利用すればこれを実現できるか、だ。
「米国のデータサイエンティストと話をすることがあり、米国でDXがどの程度議論されているのかと聞いた際、現在の米国で『DX』という用語が話題になっていることはないし、それがあったとしても2000年前後のことではないかと言われ、驚きました。米国では、ERP(Enterprise Resource Planning)の導入が2000年前後で進み、これは日本で言うところのERPとは似て非なるもので、組織内のあらゆるシステムを統合することを設計思想にしており、そのため、システム横断的なデータの可視化が、自動的に素早く可能です。権限を与えられた者は、誰でもが自分の見たいデータをリアルタイムで見られるので、何か改善すべきテーマがあった際にも、組織内の各部署からいくつものアイデアが出てくる。もちろん意思決定はトップが行うにしても、そこに至るまでの議論のプロセスが極めて豊かなのだと思います。米国では、大学でも専用のERPが普及しています」
一方、日本の場合は、ガラパゴス的に各部署に最適化された様々な基幹システムがある。それぞれに特長があって、痒い所に手が届く優秀なシステムも多いが、それでは、リアルタイムでのデータの統合は難しい。また、それぞれの部署は、単年度の業務を間違いなく実施することが重要であり、データ統合のためだけに、使い易い、使い慣れたシステムを変更したくないという現状にある。
2010年に、福島氏の前職であった山形大学教授としてEMIRに取り組み始めた当初は、大きな外部資金を得られたこともあり、データ統合をめざしたシステムをスクラッチで構築するための努力を重ねていたが、膨らみ続けるコストに、地方の中規模大学での予算では、やがて限界を感じるようになったという。そこで、氏が、次のアプローチとして着目したのが、BIツールの導入だった。各部署で使用しているシステムを変えなくても、収集したデータをBIツールに投入さえすれば、データ可視化のための統一されたシステムとなり、全学に対するデータ分析や結果の共有が容易にできるからだ。
SAS導入の決め手は、コミュニケーションにつながるビジュアル表現と低コスト
BIツールの情報収集をしている中、ある展示会で出会ったのが「SAS Visual Analytics」(以下、SAS VA)だった。可視化された図表の見やすさ、ビジュアル的な表現力の高さに加え、低コストであることが氏の関心を惹いたという。
「PC1台ずつにインストールするタイプの安価なBIツールはありましたが、ネットワークにつないで全教職員で利用しようとするとコストが急増したり、閲覧する人数分だけコストが加わるなど高額になってしまいます。利用人数ごとの課金では学内で利用者が増える程コストが膨らむわけですので、それではデータ文化は育ちません。SAS VAは組織内であれば何人が閲覧しても契約料金内で済むというコストの設計思想が魅力でした」(福島氏)
山形大学でSAS VAを導入し、国内におけるEMIRの先駆者として実績を築いた後、福島氏は大正大学に異動し現職に就いた。当時の大正大学ではExcelや統計ソフトを利用したデータ分析が行われていたが、氏はここでもSAS VAの採用を決めた。
「私は統計解析そのものよりも、『データを使ってどうコミュニケーションするか』に興味の中心があり、その経験もありますので、SAS VAを選びました。より専門的な分析レポートは、統計的知見のあるメンバーがそれまで通りの方法で行い、もっと身近で利用シーンの多いレポートは、ユーザー自らが操作してビューをつくれるような、ある程度のインタラクションが確保されたシステムを求めていました」(福島氏)
多岐にわたる学生データを収集・分析し、内部質保証のための自己点検・評価にも活用
SAS VA導入から約7年が経った今、大正大学が収集している学生データは多岐にわたる。入学前の接触データに始まり、入試データや、高校3年生4月段階での志望順位や大学受験時点での志望順位、併願大学のような入学時点のアンケート調査データ、毎年、学生に実施している満足度や達成感に関する調査データ、出席率、成績、資格取得状況、休退学等の在籍状況、PROG(汎用能力を測定する検査)、所属サークル、就職先や就職に関する満足度調査データ、卒業生調査データなど、幅広い。
これらデータは一か所にまとめられており、同研究所が作成したダッシュボードを利用すれば、SAS VAで分析レポート(ビュー)を生成することができる。学生の属性等に即してビューを切り替えられるスライサーやチェックボックス等のスイッチを設定することで、誰でもが容易に分析結果を深堀することができる。現在、約300人の専任教職員全員がアカウントを持ち、制限がほとんどなく、同じビューを利用できる環境が整っているという。各教職員がSAS VAを扱うにあたっては、研究員の和田浩行氏がサポートにつき、利用方法のレクチャーや各部署からのリクエストに応じて複雑な分析の代行を行っている。
「オープンキャンパス参加者の満足度について、数年分の比較ができるレポートが欲しい、年内入試とそれ以外など入試のタイプ別に絞り込んだ結果が見たいなど、学生募集戦略に関するレポート作成の依頼は多いですね。これをすべてExcelでやったら大変なことになりますが、SAS VAでは瞬時に細かいところまで絞り込む探索が行えるので、SASレポートにしておくところにメリットがあります」(和田氏)
学生募集だけでなく、教育の内部質保証にも、SAS VAは活用されている。内部質保証とは、自己点検・評価を通した不断の改善を継続することによって、大学自らが教育・研究の質を保証することだ。大正大学エンロールメント・マネジメント研究所では、毎年、学部・学科等の必要なレイヤーごとに、SAS VAで様々な教学関連のデータや学生データを可視化したり、KPIとして示すことなども行っている。これらを、学科長などがカリキュラムのアセスメントを行ったり、自己点検・評価シートを作成する際に活用している。
プラットフォームをSAS Viyaに変更、時間とコストの削減に
2023年にはプラットフォームを、それまでのオンプレミスからSAS Viyaへと変更した。移行作業はサポート企業の力も借りたが、予想よりもスムーズに終了したという。
「SAS Viyaになってからは、オンプレの頃よりも動きが良くなりました。操作してから結果が出るまでのラグがなくなったことで、時間とコストの削減につながっています。また。複数の分析モデルを使って出した結果を、瞬時に比較することができるようになったのも大きなメリットです」(和田氏)
和田氏は現在、自然言語による対話形式で、より簡単に自動分析を行える仕組みを準備中であり、これが実現すれば教職員のSAS VAの活用もいっそう進むと考えられる。
一方で、生成系AIがIRに導入されることに対する課題は、「データ定義の統一」だと福島氏は言う。例えば「本学の退学率を教えて欲しい」というスクリプトに対し、AIが何を「本学の退学率」として回答するのかは大きな問題となり得る。スクリプトを作る側がデータを熟知しており、何年度の、何月何日基準の、どういう定義の退学率を聞きたいのか、それを正確にスクリプトとして表現できればよいが、そうでない場合、聞き方が曖昧な分だけ様々な退学率が回答されることになり、その数字が一人歩きを始めるかも知れない。また、管理側で退学の処理が行われるのは学期の終わりが多いので、データ上そこで退学者が増えるのは当然だが、学生が退学を意識したのはもっと前のはずだ。どのタイミングを退学に最も関連する時期と考えるのかで、大学が、どのタイミングで、どのような対応をするのかを検討する際にも影響を与える。データの背景を理解し、施策に繋げるには、人間の判断が必要になるからだ。
「こうした定義の問題も含め、乗り越えるべき課題は数多くあります。まだ、IRデータの与える影響が、経営の根幹に関わるような立場でないうちはよいのですが、今後、大学経営に本質的な意味でデータドリブンが求められる時代になるのであれば、これらの問題を徐々にでも解決しなければなりません。加えて、取得できるデータには限界があります。例えば、それぞれの学生の生い立ちやそれによって形成された気質など、データとしては収集できないが、学生の成長にとっては重要な情報も数多く存在しています。私たちは、データ化できた、蓄積できた、分析できたデータしか扱うことはできませんので、データの限界をしっかりと理解し、いたずらにデータだけに頼るマネジメントスタイルに陥らないことも大切です。そう考えると、教育にはやはり経験と、そこから生み出された直感も重要なのだと感じます。分析したり、可視化したデータを共通言語として、教職員が、経験も活かしながらしっかりと議論を重ねること、データに振り回されるのではなく、データをいかに活用するのかが最も大切なのだと思います」(福島氏)

課題
少子化に対応した戦略的経営に不可欠な全学的データ活用を、サイロ化したシステムが阻害
ソリューション
利点
全学で学生データを活用し、戦略的な意思決定と教育の質を向上