アナリティクスに基づくリスク評価により、刑務所内の暴力が激減
SASは刑務所における、データを活用して暴力を予測・緩和する取り組みを支援しています。
50%削減
職員への暴行件数
インディアナ州矯正局(IDOC)がこの事例で活用した製品 • SAS® Visual Analytics • SAS® Enterprise Miner™ • SAS® Enterprise Guide®
米インディアナ州矯正局、リアルタイム・データとSASの予測分析を活用して、職員への暴力攻撃を半減させることに成功
その日のインディアナ州矯正局(Indiana Department of Correction: IDOC)も、普段と何ら変わらない時間が過ぎていた。研究者のサラ・シェル(Sarah Schelle)氏とブレット・エリス(Bret Ellis)氏がウォータークーラーのそばで立ち話をしていると、施設運営副局長のジェームズ・ベイジンガー(James Basinger)氏が近づいてきた。彼は見るからに動揺していた。ベイジンガー氏は電話を取り出し、その陰惨な写真を二人に見せる。またしても看守(刑務所護衛官)への暴力攻撃だ。今回は、かなり深刻な打撃を受けており、看守は入院を余儀なくされた。
「我々はこれについて何かをしなければならない」と、ベイジンガー氏は言った。
それを契機にシェル氏とエリス氏は素早く行動を起こし、自分たちが最も得意とすること ── すなわち、データを活用して複雑な問題を解決すること ── に取り組み始めた。
その日の攻撃は単発的な事案ではなかった。その年の春、IDOCは職員に対する残忍な暴行の急増に苦しんでいた。過去18ヶ月間にわたり、月平均で320件の暴力行為が、IDOCの複数の成人向け施設にわたって記録されていたのだ。
「この暴力行為の急増は動揺を招いただけではありません。州にとっては、職員への補償や非生産的な時間の観点から高額の負担が生じます」と、シェル氏は言う。「こうした攻撃は、職員にとっても、施設にとっても、インディアナ州民にとっても高コストなのです。」
IDOCのリスク評価ツールがうまく機能してないのは明らかだった。Indiana Risk Assessment System (IRAS) は、暴力ではなく再犯の確率を予測する目的に特化して設計されたものだった。さらに、IRASが利用するのは「収監時に取り込まれた静的な情報」のみだ。致命的なことに、IRASは収監中に囚人のリスク状態に生じる継続的な変化を取り込むことができない。
言い換えると、「1日目は低リスクだった囚人も、100日目には高リスクになる可能性もある」ということだ。しかし、これらの変わりゆくリスク要因を追跡管理および周知伝達する方法がなければ、看守たちは暗闇に置き去りにされているようなものであり、予期せぬ暴行が次の瞬間に待ち受けていないとも限らない。
ストレス要因をどこで遮断できるかを特定することにより、我々は暴力の削減を促進し、これらの人々を長期にわたり比較的良好な状況に置くことができます。 Sarah Schelle Executive Director of Legislation and Data Science IDOC
行動データを用いて暴力の発生を予測する
この問題について施設運営職員たちと議論した後、シェル氏とエリス氏にとって明らかになったのは、「犯罪者たちが最も危険な状態になったときにそれを検知・伝達できるように設計されたツールがあれば、看守や受刑者仲間への暴力行為をシステマチックに削減できるだろう」ということだった。
新しいリスク評価ツールに関する作業は、SASの予測分析(予測的アナリティクス)ソリューションを用いて開始された。このツールは「すべての関連データソースを取り込む」、「暴力の発生をより正確に予測する」、「その洞察を施設職員たちに明確に伝達する」という3つのことをこなせる必要があった。
IDOCがまず取り掛かったのは、SASのデータ管理ツールを用いて、IRASや局内の犯罪者情報管理システムをはじめとする多様なシステムのデータを集計することだった。この集計では、数十種類に及ぶニア・リアルタイムのリスク変数を数式に組み込んだ。フォーカス・グループには施設職員たちも加わったが、そのことがこのモデル内の変数群を磨き上げる上で役立った。彼らのフィードバックには、最初のモデルに含まれていた変数群の間の相互作用に関するものが含まれており、それらの変数は、もし彼らのフィードバックがなければ、モデル内で個別に作用することになっていただろう。これらの事項を取り込んだ後、モデルは格段にパワフルになった。モデリングの入力としてテストされたリスク変数は100種類以上を数える。
「我々は人口統計学的属性からは距離を置き、リハビリテーションとポリシーを通じて変えることのできる要因にこだわるように努めました」と、シェル氏は言う。「最終的に、我々は囚人たちに “烙印” を押したいのではなく、むしろ、変化するリスク要因に光を当てることを通じて、施設職員が囚人を適切に扱えるように支援したいと考えています。」
ほどなくIDOCは、さまざまな予測モデルのテストを開始した。シェル氏とエリス氏は最も正確なモデルを特定するべく、「違反行為の実施確率」を出力データとして用いて、モデルのタイプや入力を比較した。興味深いことに、「現在の年齢」や「文の長さ」といった多くの伝統的なリスク指標は “統計的に有意ではない” ことが判明した。一方、「職務状況」や「最近の禁制品違反歴」のような要因は、より効果的な “暴力の予測子” であることが示された。
最終的に、最適なモデルとして選ばれたのは決定木(ディシジョンツリー)だった。このモデルでは、複数の決定木が「自動交互作用検出(automatic interaction detection)」(機械学習の一形態)を用いて、説明可能な方法でリスクスコアを計算する。シェル氏によると、この “説明可能な方法で” という点は、ポリシーを策定する際の重要なファクターだという。「もし仮にこのモデルが、ある人物が “何もせず、ぼんやりしている” という理由から “暴力を犯す確率が高い” と示すとすると、我々はポリシーを通じてそうした “アイドル状態” を減らすように取り組むことができます。」
インディアナ州矯正局(IDOC)に関する事実と数字
18
施設数
5,500
職員数
27,000
受刑者数
リスクを施設職員に伝達する
再犯ではなく暴力を予測するように設計された新しいリスク評価モデルを得たことで、IDOCはゴールへの中間地点まで来た。次に必要なのは、施設職員と洞察を共有する手段である。
IDOCがこの取り組みに選んだのはSAS Visual Analyticsだった。今では、すべての成人向け施設から、適切なリスクデータを示すダッシュボードにアクセスできるようになっている。例えば週次のホットリストは、最近どの囚人が高リスクとして再分類されたかを表示する。これにより、メンタルヘルス、保護監督、矯正プログラムを担当する職員たちは週次のミーティングでそれらの囚人について議論し、最良の方針を判断することができる。この方針には、その受刑者を別の建物に移動させる措置や、その受刑者に対処するために追加の看守を配置する措置が含まれる可能性もある。
また、どの要因が “囚人の高リスク化” を引き起こすかを把握することにより、IDOCは暴力を抑制するべくプロアクティブ(事前対応的)にそれらの問題に対処することができる。シェレ氏は次のように言う。「研究では、特定のストレス要因群が個人の暴力的な振る舞いを誘発することが示されています。それらのストレス要因をどこで遮断できるかを特定することにより、我々は暴力の削減を促進し、これらの人々を長期にわたり比較的良好な状況に置くことができます。」
職員への暴力行為が半減
多くの報告によると、新しいリスク評価ツールは計画通りに機能している。IRASに比べ、この新しいツールは暴力の予測精度が4倍も高い。その結果、6ヶ月のテスト運用期間中に職員への暴力行為が半減した。また、受刑者同士の暴力行為も20%減少した。
IDOCによると、時間の節約も、もう一つの大きなメリットだ。週に一度、IRASモデルを用いて囚人たちを再スコアリングしようとすると ── このモデルのリスク評価は、収監時になされた30分間の面談に依存しているため ── 、27,000人の受刑者を処理するには職員たちが毎週、延べ13,500時間を費やすことになる。しかも、その結果は正確とは程遠い。一方、SASのモデルはこの作業を労働力不要でこなす。
最後に、IDOCはこの新しいモデルを用いて、多くのポリシーとプログラムを導入した。例えば、囚人が一般市民に再び溶け込めるよう支援するために、メンタルヘルス回復室が設置された。また、メンタルヘルス問題や管理テクニックに関して職員をトレーニングするための新しい教育プログラムも策定されている。
IDOCはまだ、すべての施設にモデルを展開するプロセスや、情報を最大限に活用する方法を職員にトレーニングするプロセスの途上にいるが、シェレ氏によると、このプロジェクトは順調に受け入れられてきており、最前線の職員では特にそれが顕著だという。
「現場担当者たちに安心を与えてくれるのです」と、彼女は言う。「このツールは、彼らが以前は持ちえなかった新たなレベルの状況認識をもたらします。それが彼らの日々の仕事に非常に大きな違いを生むのです。」
本記事に掲載された導入効果は、各企業によって異なる状況やビジネスモデル、入力データ、業務環境に固有のものです。SASの紹介する顧客体験は、各企業に固有のものであり、業務面や技術面の背景もそれぞれ異なるため、各事例に掲載されたあらゆる証言は、導入の典型例を示すものではありません。導入にともなう金銭的効果、導入結果、ソリューションのパフォーマンスなどの特徴は、個別の顧客のコンフィグレーションや使用条件に左右されるものです。本事例は、すべてのSASの顧客が当該事例と同じ導入効果を得られるとするものではなく、そうした効果を保証するものでもありません。SAS製品および提供サービスの保証内容は、各製品・サービス向けに締結された契約書内の保証条項に記載された内容に限られます。したがって、本事例に掲載された内容は、それらの保証内容をなんら補足するものではありません。事例に掲載された顧客は、各事例をSASとの契約にもとづいて提供しているか、SASのソフトウェアの導入成功にともなう体験を共有しているものです。