随想「マーケティングとデータ解析」

第5回 半沢直樹的なデータ解析

朝野熙彦
中央大学客員教授

半沢直樹は2013年夏に放映され、今世紀最高の視聴率を獲得した連続テレビドラマです。ビジネスを舞台にした脚本とアイドルに頼らないキャスティングという常識外れの戦略が話題になりました。視点は違いますが私は、データ解析の世界にも半沢直樹的な面があることを指摘したいと思います。マーケティングにおけるデータ解析には、半沢的な分析と非半沢的な分析があります。中でも半沢的な性格が顕著なのがコンジョイント分析でしょう。なぜそうなのかを自らのビジネス体験をベースにして随想を述べましょう。

INDEX

  1. はじめの言葉、おわりの言葉
  2. 半沢的な特性とは何なのか
  3. コンジョイント分析の実務導入
  4. バトルの勃発
  5. 波風を立てるデータ解析

1.はじめの言葉、おわりの言葉

かなり以前のことですが、私はマーケティングでの利用を念頭において多変量解析を表1のように分類することを提唱しました。

 分析データの性質
量的データ質的データ
分析の目的はじめの言葉
いくつもの変数を分類・整理して物事を単純化したい
主成分分析
因子分析
クラスター分析
コレスポンデンス分析
数量化理論Ⅲ類
MDS(多次元尺度構成法)
おわりの言葉
変数間の因果関係を明らかにし、管理・統制したい
重回帰分析
重判別分析
正準相関分析
数量化理論Ⅰ類
数量化理論Ⅱ類
コンジョイント分析
【出所】朝野(1996,2000)

表1 多変量解析の分類

はじめの言葉は、前人未踏の密林に探検隊が足を踏み入れて、現地の略図を作成するのに似ています。錯綜したデータを見通しよく整理することを通じて、マーケティング上興味のある仮説を発見することが主な狙いになります。あくまでも仮説は仮説にすぎないので、それが正しいとは限りません。また、これからどういうマーケティング戦略をとるべきかという疑問にストレートに答えてくれるわけでもありません。これが「はじめの言葉」といわれる所以です。

一方、おわりの言葉は因果関係や影響の強さを明らかにして意思決定につなげることが目的になります。ビジネスで言えば「わが社の製品が売れないのは、この製品のここが悪かったからだ」とか「こうなったのは××部署のせいだ」と責任を明らかにすることになります。もちろん責任を追及するだけではなく、どうすれば事態を改善できるかを知ることが一番大切です。一般的にいえば、「〇〇の製品を作って、△△の方法で販売すれば、ビジネスは成功する」という結論を出そうとするのがおわりの言葉です。

【はじめの言葉】
はじめの言葉は、とかく結論があいまいになりがちです。解釈の余地が大きいので、ああも言えるしこうも言えるで堂々巡りの水掛け論におちいることがあります。たとえば因子分析における因子のネーミングがそうです。

仮説の正当性を実証するためには検証のために二の矢を射ることが必要です。実証が済むまでは仮説が正しいかどうかは何とも言えないはずですが、マーケティングの現場では、仮説が提起されると直ちにそれが正しいという前提で仕事が進行しがちです。この点はビジネスマンの世界とアカデミアンの世界で常識が大きく乖離する部分です。

【おわりの言葉】
おわりの言葉はデータ解析のエンドユーザーに、こうしろと迫ることになりますので、それに対する異論/反論objectionを覚悟しなければなりません。わが社のターゲット市場と対比して標本データに偏りはありませんか?データの収集過程にミスは混入していませんか?分析変数で抜け落ちているものはありませんか?どういうロジックでアウトプットが出てきたのですか?パラメータの推定値に誤差はないのですか?・・・などとエンドユーザーから分析者に突っ込みが入る場合もあります。もちろん何の反論も無い場合もあります。肝心なのはここです!

企業のプランナー(あるいはマネジャー)は調査やデータ解析を実行する以前から何らかの事業構想を持ってプロジェクトをスタートさせているのがふつうです。そして、
A) 事業構想を支持する分析結果が出た場合⇒反論は何もない
B) 事業構想を否定する分析結果が出た場合⇒反論と批判の嵐!

そういう次第ですから、おわりの言葉をいう時はデータ解析の担当者は十分に覚悟して結果の報告に臨まなければならないのです。

2.半沢的な特性とは何なのか

さて、私自身が何を半沢的と呼んでいるかについて、より具体的に説明するべきでしょう。以下に私が考える半沢的特性を3つあげました。そしてそれぞれに対応する具体的な行動例を( )内に付記しました。( )内の意味を理解するにはいささか専門的な知識が必要になります。もし半沢直樹のテレビドラマを見ていなければ、WEBサイトなどで「あらすじ」をご覧ください。

【半沢的特性】
① 自らに多少の瑕疵があることは認めるものの、それは全体の中ではごくわずかなものだと主張する(本来責任をとるべきは支店長と本社部門ではないか)
② 容赦せず相手を追い込む(逃れようがない証拠を提示する)
③ 過ちを認めた相手に次にどうすべきかを言う(土下座させる)

 

表1の多変量解析の分類では「おわりの言葉」は「はじめの言葉」よりも半沢性が高いことが察せられるでしょう。私はおわりの言葉の中でもコンジョイント分析が最も半沢的だと考えています。

3.コンジョイント分析の実務導入

【そもそもコンジョイント分析とは何か】
コンジョイント分析はマーケティング関係者以外にはあまり知られていない方法ですので、最初に手短に説明します。詳しくは朝野(2012)の解説をご覧ください。

コンジョイント分析のモデルは~を何らかの意味での整合的な関係として①で表されます。
  観測値 o~u=Db ………………………………………①

ここでDは1か0を要素とするデザイン行列、bが部分効用関数(part worth function)と呼ばれる未知のパラメータベクトル、uが製品コンセプトに与えられる全体効用値のベクトルです。観測値ベクトルのoは分析法の開発当初は選好順序に限定されていました。つまりデータの尺度水準は順序尺度だけでした。①は重回帰分析と似た形をしていますが、oが量的な測定値ではないところが決定的に違います。

oは測定単位のない、いわゆるノンメトリック・データなので、この点がパラメータ推定に際しての難所になります。1970年代における古典的なコンジョイント分析は「加法モデルに従う順序データの分解」と定義できるものでした。

その後、同じ課題を確率効用モデルで定式化する提案が行われ、今日では観測値oは名義尺度のデータにまで拡張されています。混乱しがちなので関係するいろいろな分析法を整理したのが表2です。

 判断データの尺度水準
要因分解の方法
今日でいうコンジョイント分析
名義尺度
Choice Based Conjoint
順序尺度
古典的コンジョイントモデル
ランクロジットモデル
コンジョイント分析以外の方法
間隔尺度か比例尺度
分散分析の主効果モデル
ダミー変数回帰分析(OLS)
林の数量化理論Ⅰ類

表2 コンジョイント分析とその関連手法

【コンジョイント分析に関心をもったきっかけ】
米国のグリーンらが1971年に「判断データを数量化するためのコンジョイント測定」と題する論文を発表しました。これがマーケティング分野でコンジョイント分析を適用した最初の論文でした。彼らは雑誌媒体と広告コピーに対する選好の分析にコンジョイント分析を応用したのでした。そのころ、私はある新聞社が発行する月報で海外の研究を紹介する欄を担当していて、そこでこの新しい分析法を紹介することにしたのです。

グリーンらの研究が契機になって欧米ではその後コンジョイント分析の応用が急激に広がり、またパラメータを推定するための新しいアルゴリズムが次々と提唱されて活況を呈していました。そうした動向を紹介したのが朝野(1979)の報告でした。

しかしコンジョイント分析の理屈を紹介しているだけでは産業界への普及は進みません。そこで論より証拠で、自分でマーケティングの実務にコンジョイント分析を導入することを始めたのです。自動車、ラベルワープロ、コピー複合機、果汁飲料、日用雑貨品、保険商品など様々な新製品の開発にコンジョイント分析を適用しました。

「テクノ・マーケティング」という本が1983年に出版され、その1章でコンジョイント分析が紹介されました。ただし内容はグリーンらの論文の抄訳でありオリジナルの適用例はありませんでした。その後、武藤・朝野(1986)は海外旅行のプランと集合住宅の企画とファミリー・バイクの設計にコンジョイント分析を適用した事例を報告しました。これがマーケティング分野でコンジョイント分析を適用した日本で最初の書籍ではないかと思います。

そんなわけで、誰から頼まれたわけでもないのにコンジョイント分析の普及に勝手に取り組んでいたのが1980年代でした。

【コンジョイント分析のどこに魅力を感じたのか】
随想の第1回で紹介しましたように、私は20代のころ調査の営業のために企業を回って御用聞きをしていました。そのころ、「消費者に商品の選択理由を聞いてもホンネを答えないじゃないか。調査をしても金の無駄だ」という批判をよく聞かされました。現役リサーチャーに聞くと今でも同じクレームを聞かされるそうです。マーケティング・リサーチが戦後日本で始まって半世紀以上たちますが、常に繰り返されてきた調査批判なのでしょう。

コンジョイント分析が痛快なのが、それならいっそ選択理由は聞かないことにしようじゃないか、という割り切りにあります。人間の言語報告に対する懐疑論に立った分析法なのですね。コンジョイント分析に私が感じた魅力は次の3点でした。

1)選択結果を知って選択理由をインサイトするための逆推論のツールである
2)評論家とかコメンテーターにありがちな後付けの論評が目的ではなく、課題解決を志向する
3)消費者に順序判断しか求めない

この3)も大事なポイントです。消費者がふだん買物をするときに、候補商品にいちいち数量的なスコアをつけてから購入商品を選んでいるのでしょうか?単に一番買いたいのはどれで、それが無ければ次はどれ、というように順序さえつけられれば買物はできます。数量的なスコアリングを要求するのは、ふだんしてもいない過剰な情報処理を人間に強制しているのではないでしょうか。

困難な量的判断を求めるよりも、順序づけの方が、はるかに容易なタスクであり、かつ回答の信頼性も高いはずです。Choice Base Conjointの場合ですと、選択対象のセットを{購入商品}、{非購入商品}の2グループに分けるだけですから、さらに判断タスクがショッピングの現実に近くなります。

【コンジョイント分析のサンプル】

属性
水準1
水準2
水準3
ボタンサイズ



音声ガイド
あり
なし
 
カラーバリエーション
あり
なし
 

表3 テレビのリモコンの属性水準一覧表

 

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図1 複数の提示カードの1枚

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図2 部分効用関数

4.バトルの勃発

コンジョイント分析を実際に使いだすと、ユーザーからいろいろと批判を受けるようになりました。典型的な批判を4タイプ紹介します。

批判1 プランを単純にランキングさせるだけで済むのではないか
コンピュータを使って複雑な解析をしなくても、属性と水準を組み合わせた総組み合わせを示して、選好順序をつけてもらえれば終わりではないか。コンジョイント分析から人気ランキング以上の情報が出てくるのか?

批判2 選好の理由を聞かなくて大丈夫か
コンジョイント分析は図1のようなカードを購入意向順に並べる1問だけで調査は終わります。するとそれで大丈夫なのかが心配になる人が出てくるものです。

批判3 新製品を消費者に聞くこと自体が馬鹿げている
消費者にはまだ市場に存在しない製品など答えようがない。価値ある製品を提供するのは消費者ではなく企業の使命である。

批判4 将来予測
分析結果が、時間の経過に対して不変であると証明できるのか。将来発売される製品についての選好を今聞いても無駄ではないか?

【私の反論】
4つの批判に対して当時私は次のように反論したものです。

批判1には、調査でたまたま提示したプランの中から最終的なプランを提案するつもりはないことを訴えました。分析結果を使って属性水準の総組み合わせをとるとプランが数千通りを超えることもあります。それらを効用値の高い順位に並べて最適プランを探索することができます。さらに部分効用関数を内挿・外挿予測することで、より詳細に可能性を探索することもできます。たとえば幅350mmのコピー機というのが調査で提示したプランだったとしても、360mmならどうか342mmならどうかというように効用値自体を推定して検討することができます。提示プランの人気ランキングをしているだけでは、このようなシミュレーションは不可能です。

批判2には図2のような部分効用関数によって設定した水準の効用値が計量的に明らかにできるし、ボタンサイズとか音声ガイドという属性の重要度も寄与率によって計量できます。それで十分ではないですか?と答えました。そもそも消費者に理由を聞いても意味がないと言っていた本人が、質問しなくて大丈夫かなどと心配することがあって可笑しく思いました。自己矛盾していますね。

批判3は一見もっともらしいのですが、その割にはユーザーニーズが分かっていないプランナーやデザイナーもいました。消費者にとって価値が高いプラ ンを構想していたはずなのに、分析してみるとあてが外れることがあります。そんなに消費者のことはちゃんとわかっている、というのなら、コンジョイント分析を実行する前に部分効用関数を予想して予めグラフに描いておいてください。分析結果が出てから、予想と結果を比べてみたらどうです?などと反論したものです。

批判の4もまことにごもっともな批判です。しかしそうであるならば、この問題はコンジョイント分析固有のものではなく、試飲テストや試食テストを含めて、新製品の発売前にするあらゆる事前評価の調査も同じ問題をかかえていることに注意すべきです。実際に発売しなければ何も分からない、というのは、事前アセスメントは不可能だというのと等しいですね。東京ディズニーリゾートの来場者数の予測、新規空港の利用者数の予測、自動車道路の延伸時の交通量予測など、すべて計画時・建設時には不明のままで構わないのでしょうか。集合住宅や乗用車の開発もそうですが、完成までに時間がかかる点でみな共通していま す。

数十万人、数百万人の利用者の10人、100人まで正確に予測できなければ予測と認めない、などといかにも科学的で厳密な注文をつけることが生産的 だとは思えません。たとえば市営バスのAルートとBルートが競合プランとなっているときに、どちらがより利用者に受け入れられるかを知るだけでも、ユーザーニーズが何も分からないよりはましではないかと思うのです。

まあ、このような奥が深くて含蓄のある議論をかわしつつ、それぞれの開発プロジェクトが進んでいったものとご推察ください。

5.波風を立てるデータ解析

半沢直樹の特徴は、長い物にまかれたり、問題をうやむやにしてやり過ごすのではなく、あえて波風を立てるところにあります。上記した議論からもコンジョイント分析の半沢的特性が確認できると思います。前述の3つの特性にそって確認しますと、

1)全体効用が主効果加法モデルに従って分解される、というロジックに関しては属性の独立性が疑われるのが通常です。コンジョイント分析の運用では デザイン行列を直交配列に従って作成することで、そうした懸念に対処しています。森羅万象すべての原因系を分析属性に入れることはできないことは、コン ジョイント分析の計画段階で念を押しておきます(この属性の中で相対評価できればいいといったではないか)

2)部分効用関数も属性の寄与率もすべて数字で出てきますし、シミュレーションの計算もただの足し算ですから単純です。単純であるだけにユーザーに都合よく解釈する余地がありません(担当者が構想していたマスタープランは効用値が低いことが明らかになりました)

3)プランナーの構想がたまたまユーザーの価値に適合していれば幸いですが、そうではないこともしばしばです。過ちを認めたうえで、より消費者に歓迎される修正プランを提案することができます(今からでも直せば市場で成功しますがどうします?)


【波風を立てるのはよいことか?】

よいかどうかは誰にとって、ということが問題になるでしょう。波風を立てれば開発担当者の顔がつぶれるのは確かです。ですが、黙って見過ごしていれば企業が救われるというものでもありません。コンジョイント分析の目標はマーケティングを成功させることです。プランナーとの軋轢や紛糾もマーケティングの質を高めてビジネスを前進させるために必要ではないでしょうか。

一方で波風を全く立てないデータ解析というのは、はたしてビジネスにどう貢献するのでしょうか。半沢的な分析だけでなく、非半沢的な分析の意義についても考えてみる必要があるかもしれません。最終的にはデータ解析をすることによって、マーケティングを成功にもっていけるのかどうかが肝心なのだと思います。

引用文献

朝野煕彦(1979)コンジョイント分析の方法-事例及び使い方-.日経広告研 究所報,69,28-36.
朝野熙彦(1996)「入門多変量解析の実際」講談社(第2版、2000)
朝野熙彦(2012)「マーケティング・リサーチ」講談社
Green,P.E. and Rao,V.R. (1971) Conjoint measurement for quantifying judgmental data.
 Journal of Marketing Research, 8, No.3,355-363.
博報堂マーケティング創造集団編(1983)「テクノ・マーケティング-市場が見える新戦略手法―」日本能率協会
武藤真介・朝野煕彦(1986)「新商品開発のためのリサーチ入門」有斐閣

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