首都大学東京

地域保健に関する量的データの分析を通じて、データ解析を実務に生かせる人材を育成
―SASを使う最大のメリットは、分析手法を言葉のように表現できること―

首都大学東京 健康福祉学部・大学院人間健康科学研究科(荒川キャンパス)はSASの教育機関向けライセンス「SAS® Academic Program」を導入し、所属する学生および教職員がSASソフトウェアをいつでも自由に利用できる環境にある。荒川キャンパスで学ぶ学生は、初歩からSASを学び、SASを利用して各学生が目標とする地域保健活動の評価のためのデータ解析を行うことができるまでになる。研究を通して分析の重要性を理解し、実際に分析手法の開発から分析の実施までを行うことは、卒業・修了後、分析エキスパートとして社会でのスキルアップにも役立っている。


実務に即応用できる分析スキルを養成

首都大学東京は、2005年に東京都立大学、東京都立科学技術大学、東京都立保健科学大学、および東京都立短期大学の4大学が再編・統合された新しい大学である。大都市における人間社会の理想像の追求を使命とし、教育研究機関や産業界との連携による大都市に立脚した教育研究を特色とする。

キャンパスは、南大沢、日野、荒川の3カ所。同大学で主にSASを利用している健康福祉学部・大学院人間健康科学研究科では学部2~4年と大学院の学生たちが学んでいる。同学部・同大学院教授 医学博士 猫田 泰敏氏は、大学院修士の科目である保健情報管理論を担当している。この授業には、統計解析ソフトを習得する8コマが組み込まれており、学生は保健情報学と情報管理を学ぶことになる。

猫田氏は、「私が教えているのは地域保健活動評価論と呼ばれる領域で、この学問にかかわる学生は、行政経験のある人が多いのです。彼らの強みは、現場を知っていること。ただ、現場でデータを扱うことは多いものの、ソフトウェアを使って分析した経験はほとんどないため、データを使って実証したり、表現したりできないことへのもどかしさを抱えているケースが多いようです」と話す。

こうした背景もあり、受講する学生は誰もが分析への明確なニーズを持っている。授業は、ほぼマンツーマンで進め、DATAステップとPROCステップの説明、DATAステップにおける情報言語や式の使用、変数の種類、質的なデータと量的なデータの分析手法、多変量解析など、幅広いテーマを初歩から指導する。授業を通してSAS初心者は使い方を習熟し、自ら分析手法を考え、分析を実施できるようになることを目指す。

研究を通じて統計解析の素養を身につけた人材を輩出

学部生の卒業研究段階では、特にSASを使用することを求めていない。統計学に苦手意識を持つ学生も少なくないため、たとえば母親から集めた育児についての意見を地域別に分け、GIS(地理情報システム)で分析するなどの取り組みが行われている。

最近の例では、ほとんどの子どもが受診する1歳6カ月児と3歳児の歯科検診のデータを分析し、地域別に傾向を調べた研究がある。首都圏での検討の結果、1歳6カ月では地域別にほとんど差のなかった虫歯の割合が、3歳になるとある地域で上昇することがわかった。この研究で虫歯の増える要因までは特定できないが、明らかに突出したデータを得られることは、行政が地域保健施策を実行する際に有用な情報になる。大学院修士課程でSASを学んだ学生は、それぞれに興味のあるテーマを設定し、研究を深めていく。猫田氏にとって最も思い出深かったのは、結核についての研究だった。結核関連のデータはプライバシーへの配慮により保管室の外に持ち出せなかったため、学生がSASをインストールしたPCを許可を得て保管室に持ち込み、セキュアなデータ保管室の中で分析を行った。分析結果を持ち出すことはできるが、元データを匿名の上、入力したPCはその室内のみで使用し、最終的にデータを完全に消去した。教員と学生はSASステートメントと出力結果の確認を外部で行えるだけで、学生はひとりですべてをやり遂げた。このような使い方にSASは威力を発揮する。そうして仕上がったレポートは、見事なものだったという。

「この研究を行った学生は入学前、保健師として地域保健にかかわってきた人材でした。一般に、保健師は引退するまで保健師としてのキャリアを過ごすケースが多いのですが、その学生は修了後、管理職試験に合格し、いまは一般事務職員としての業務に就いています。分析によって成果を出した経験が、キャリア形成に影響したのかもしれません」(猫田氏)

SASは「言葉」である

猫田氏とSASとの出会いは、約30年前のことだった。猫田氏が東京大学の修士課程で学んでいたころ、大型計算機センターにデータ分析ソフトウェアが導入された。いくつかのソフトを利用し、SASの使い勝手のよさを気に入った。その後、昭和大学医学部公衆衛生学教室に勤務すると、データ集計作業の主要な部分にSASを利用するようになった。

それ以来長く使っているが、SASプログラミング言語の骨格は昔から変わらない。なにより素晴らしいのが、SASを使えば直感的に統計処理の流れを作れる部分だと感じている。

「優れた統計手法の応用を思いついても、それを実装したソフトでなければ分析困難です。SASを使えば、頭の中に描いた分析のステップを実際のプログラムとして表現できます。そういう意味で、SASは言葉であるともいえます。慣れてくると、プログラムを書くときに、次はこんな風にすればいい、と自然にヒントが得られるような感覚を覚えます。学生にも、それを感じられるところまでいってもらいたいですね」(猫田氏)

ときには、作ってみたけれど使わない手法が出てくることもある。しかし、チャレンジした手法は、プログラムとして残せる。そのため、新しい発想が出てきたときに、それまでの膨大なチャレンジの結果を応用することが容易にできる。この再利用性も、猫田氏がSASを高く評価するポイントだ。

「SASは統計分析の分野で世界一の信頼を誇るソフトウェアであると認識しています。そして、プログラミングに用いる統計手法についての一定の知識が問われるソフトウェアでもあります。だからSASは、学生に教育するソフトウェアとして極めて優れていると言えるのです」(猫田氏)

同大学では、今後もSASを使う学生の研究をサポートしていく。さらに、一般向けの公開講座においても、これまでに実施したことのあるデータ分析講座に加え、「一日でできるSASプログラミング」といった軽い内容のものを作りたい考えもある。データ解析を実務に生かせる人材を社会に送り出すために、猫田氏はいま、その長い経験から得られた知識とノウハウを、余すところなく学生たちに伝えている。

Tokyo Metropolitan University
写真 : 健康福祉学部 ・ 大学院人間健康科学研究科 教授 医学博士 猫田 泰敏氏

課題

(研究テーマ)

  • 地域保健活動評価
  • 保健学
  • 公衆衛生看護学領域における疫学・統計学教育方法の研究

ソリューション