株式会社ふくおかフィナンシャルグループ

非対面チャネルを活用した顧客コミュニケーションの実現

株式会社ふくおかフィナンシャルグループ(以下、ふくおかFG)は、2008年よりSASを使ったEBM(*1)(イベント・ベースド・マーケティング)の仕組みを運用してきた。2017年より、EBMを発展させ、さらなる顧客体験の向上を目指してSAS® Intelligence Decisioningを導入。リアルタイムかつオムニチャネルマーケティングを実現するオムニチャネルシステムを構築した。狙いは、非対面チャネルを活用した顧客コミュニケーションの強化だ。

オムニチャネルシステムは、2017年8月より段階的にリリースされた。まずは、インターネットバンキングとホームページ、メールへと展開。11月にコンタクトセンターと営業店との情報連携機能をリリース。2018年8月にはSMSを通じた情報発信も行えるようにした。初期稼働から約2年。SASを全面的に活用した同行の取り組みは、大きく3つのビジネス価値を生み出した。

*1当初SAS Marketing Automation を導入しましたが、現在販売終了しています。後継製品は SAS Customer Intelligence 360です。
*2 SAS® Real-Time Decision Managerは現在販売終了しています。後継製品は SAS Intelligent Decisioningです。

営業統括部
営業統括グループ主任調査役
宮里 大氏

営業統括部
営業統括グループ副調査役
坂本 勝也氏

1.One to Oneマーケティングの実践 

ふくおかFGがこの取り組みをスタートさせた背景に、デジタル化の加速による来店顧客の減少という課題があった。顧客の人となりや望んでいる金融サービスを理解するために、最適な解が優れた営業担当者との対面コミュニケーションであることは間違いない。しかし、来店頻度が下がれば、顧客それぞれのニーズを別な方法で理解することが必要になってくる。

そこで、SAS RTDMとEBMを組み合わせ、さらに店舗のCRMやコンタクトセンターとも連携することにより、あらゆるデータを集約。高度な分析により顧客ニーズを深く理解して、“データから顧客の姿を想像する”ことを目指したのだ。

ふくおかフィナンシャルグループ 営業統括部 営業統括グループ 主任調査役 宮里 大氏は、「最大の価値は、お客様からさまざまな情報をいただき、それを元にお客様をおもてなしできることです」と話す。同行との取引だけではつかめない顧客の情報は、SASで構築した内部DMPに外部DMPの情報を補完することで、常にアップデートしている。

現在、ライフステージや家族構成、取引振などから推定することで約20のセグメントを用意し、情報発信はセグメント内で絞り込んだ特定集団に展開。セグメントに顧客をひも付けるのではなく、顧客個人の属性情報をベースに、属性の集団としてセグメントを作り上げるイメージでセグメントを切っていることが特長だ。その上で、顧客個人の行動履歴を蓄積し、チャネル全体で共有。最適なメッセージを、最適なタイミングで届け、反応してくれた顧客に最適な提案をできる体制を構築した。

顧客の行動履歴や購買履歴に合わせて顧客一人ひとりに異なる情報発信できるため、ヒット率は向上。平均してシステム稼働前の約2倍以上になり、それを維持している。以前はダイレクトメールやアウトバンドコールを中心に情報発信してきたが、反応率が向上し、ダイレクトメール施策を大きく上回るようになったため、現在は電子メールとSMSが中心に。印刷・郵送コストの削減効果も得られた。

では、数百万規模の顧客を抱える同行は、ヒット率をどのように維持しているのだろう。福岡銀行営業統括部 営業統括グループ 副調査役 坂本 勝也氏は、「現在、モデルは約50本。結婚したり、子どもができたりするなど、お客様のライフステージの変化をとらえるとともに、対象者を抽出する際に条件を微調整しています」と話す。「具体的には、新たな指標を加えたり、使っていた指標を外したりするなどです。本システムをリリースして以来、デジタルマーケティングを担当していることで、 指標の取捨選択をする“センス”が磨かれてきているのを実感してきています。施策の実行の際には、モデルが抽出した顧客以外にランダム抽出したお客様を加えていて、その方々の反応がモデルの微調整に役立っています」。

2.リアルタイムなコミュニケーション

顧客が何らかの反応をしてくれたその瞬間をとらえて、適切なコミュニケーションを行えるようになった。カスタマージャーニーマップを用意し、顧客のステージをとらえる。たとえば、投資信託の販売であれば、まずは金融リテラシーを醸成し、資産運用の価値を理解してもらうところから。興味を持った顧客は、セミナー参加、専用口座開設、購入へと至る。それぞれのステージにおいて、顧客の反応をモニターし、迅速に適切なネクスト・ベスト・アクションを提案できる。これは、あらゆる金融サービスにおいても同様だ。ローン申し込みに対するサンキューメールの送信など、基本的なことから漏れなく実施している。

「他業種なら当たり前のようにやっていることですが、ようやくできるようになりました。いわゆるファネルアプローチではなく、“非対面でおもてなしするためのシナリオ”を作り、お客様に感謝の気持ちを伝えられるようにしています」(宮里氏)

3.チャネルを横断した顧客アプローチ

ローン商品などについては、コンタクトセンターと密に連携することで、営業店に負担をかけず、かつ顧客体験を高く保ったまま非対面チャネルだけで申し込みプロセスが完結できるようになった。マイカーローン、教育ローン、フリーローンなどさまざまなローンに対応するため、約50のシナリオを用意。電子メールやSMSなどで適切にナビゲートする。

特に成果が出た施策の1つが離脱の抑止だ。オンラインによる申し込みでは、途中で離脱してしまう顧客が一定数存在する。中には確固たる意思を持って申し込むことをやめる顧客も居るが、多くの場合、「入力が面倒になった」などの理由から離脱してしまう。「興味はあるけれど今はまだやめておく」という顧客もフォローしたい。

顧客行動をリアルタイムにモニタリングすることで、離脱の情報はコンタクトセンターと共有できる。離脱顧客へのアプローチは、コンタクトセンターが中心になって迅速に行い、約20%の顧客が申し込みプロセスに復帰してくれている。

特殊な投資信託など、対面による説明が必要なケースもある。その場合、非対面でコミュニケーションしたすべての情報を営業店に渡し、顧客が営業店でスムーズに説明を受けられるようサポートするフローを整えた。

リーチできる顧客の数が増えた

稼働から2年を経た最大の成果はどこにあったのか。坂本氏は、「営業店でお客様と対面して初めてわかるような、お客様の人となりをデータから想像できるようになりました。リアルタイムなOne to Oneマーケティングが加速したことで、収益に貢献できていることを実感しています」と話す。

宮里氏は、「リーチできる顧客が圧倒的に増えました」と話す。「営業店やコンタクトセンターだけなら年間100万人が限界でしょう。デジタルを使ってオムニチャネルをまたいだアプローチにより、300万人とコミュニケーションできるようになりました。すべてのお客様をより深く知ることで、さらに多くのお客様へとリーチを広げたいと考えています」。

Fukuoka Financial Group

Business Impact

「いわゆるファネルアプローチではなく、“非対面でおもてなしするためのシナリオ”を作り、お客様に感謝の気持ちを伝えられるようにしています」

ふくおかフィナンシャルグループ
営業統括部 営業統括グループ主任調査役
宮里 大氏

課題

  • One to One
    顧客の行動履歴や購買履歴に合わせて顧客一人ひとりに異なる情報発信できるため、ヒット率は向上。システム稼働前の約2倍になり、それを維持している。
  • リアルタイム
    顧客が何らかの反応をしてくれたその瞬間をとらえて、適切なコミュニケーションを行えるようになった。
  • オムニチャネル
    コンタクトセンターと密に連携し、対面だけでなく非対面でも顧客をサポートし、金融サービスを提供できるようになった。