スポーツ・アナリティクスの内情:ビジネスリーダーのための10のレッスン

執筆:トーマス・H. ダベンポート


野球チームのオークランド・アスレチックスとゼネラルマネジャーのビリー・ビーン氏を描いた『マネー・ボール』(マイケル・ルイス著)が2003年に発表されるまで、スポーツ・アナリティクスを知る人は多くありませんでした(2011年公開の映画ではブラッド・ピットがビーン氏を演じた)。ルイス氏は同著において、厳しい予算の中で強力な野球チームを作るために採用された、分析およびセイバーメトリクスのアプローチについて記録しています。

『マネー・ボール』が発表されて以来、アナリティクスを採用するスポーツチームが急増しました。現在、ほぼすべてのメジャーリーグの野球チームは、少なくとも一人の計量アナリストを採用しています。多くのプロフェッショナル・フットボール・チームやバスケットボール・チームも同様です。さらに、大学や一部の高校チームも分析のプロフェッショナルを採用するようになりました。

スポーツ界にとって、アナリティクスは比較的新しい分野かもしれません。しかし、アナリティクスを採用したスポーツチームから、企業が学ぶべき重要な要素があります

スポーツ界にとって、アナリティクスは比較的新しい分野かもしれません。しかしアナリティクスを採用したスポーツチームから、企業が学ぶべき重要な要素があります。次に挙げる10のレッスンは、私が25のプロフェッショナル・チームを対象に行ったスポーツ・アナリティクスに関する調査結果をまとめたレポートから抜粋したものです。

  1. リーダーシップの連携が重要。スポーツ分野では、複数のマネジメント・レベルで重要な意思決定を下し、監視を行う必要があります。持続的で一貫性のあるアプローチをするためには、意思決定に活用するメソッドをチーム全体で取り入れることが不可欠です。北米のプロ・バスケットボール・リーグ、NBAのダラス・マーベリックスは、連携を取りながらアナリティクスを活用している良い例です。マーベリックスは、著名なアナリストであるローランド・ビーチ氏を採用しました。ビーチ氏は試合中、ベンチに入って試合を見ます。マーベリックスが2011年のNBAチャンピオンシップで優勝した際、オーナーのマーク・キューバン氏はESPNのインタビューに「ローランドは勝利に重要な役割を果たしました。ベンチのローランドと連携し、試合やチームの状況を正確に把握できるようにしたコーチ、リック・カーライル氏の功績を称賛します。おかげでラインアップやプレー指示を最適化することができ、トレーニング課題も把握できるようになりました」と答えました。
  2. ビデオや位置を把握する装置などの外部データを積極的に活用。スポーツチームは、パフォーマンスを高め、より適切な意思決定を下すためにますます映像データや位置データを活用するようになっています。NBAでは、選手やボールの動きをすべてキャプチャできるよう、各試合会場の天井に6台のカメラを設置しています。メジャーリーグサッカーでは、すべての選手がGPSによって位置を把握できるようにする装置を身に付けているため、フィールド上の選手のすべての動きをキャプチャできます。さらにメジャーリーグベースボールの全球場には、すべての投球を追うカメラが設置されているほか、多くのチームはすべてのヒットや守備側の動きをビデオカメラで追っています。ここから企業が学べることは、データをキャプチャするために積極的に新たな技術を導入することだけでなく、すぐに手に負えないほどに増えてしまうデータを分析する能力を備えることが重要だということです。
  3. スポーツ・アナリティクスにおいて何よりも重要なのは試合をする選手である。スポーツ・アナリティクスは選手を中心に分析します。スポーツ・アナリティクスは、たとえばドラフトで獲得すべき選手、試合に出場させる選手、給料を払い過ぎている選手を見つけるために活用されています。多くの統計は一人ひとりの選手のパフォーマンスを測定するためのものであり、チーム内外の人が測定結果を見て選手の状態を知ることができます。一方、企業はこれまでなかなか人事分野のアナリティクスに取り組んできませんでした。一般に、社員はパフォーマンスが低くても、パフォーマンスの低いスポーツ選手のように短期間で職を離れることはありません。企業の将来を考えれば、より人材のパフォーマンス分析に注目する必要があります。
  4. 最終的に最も重要なのは個人ではなくチームのパフォーマンスである。プロフェッショナル・ベースボール界がアナリティクスを早期に導入した理由は、一人ひとりの選手のパフォーマンスを比較的測定しやすかったためです。野球は、ほかの多くのプロスポーツやビジネスと同様、チームで行うスポーツです。NBAの各チームは、選手や選手グループが試合に出場した場合と出場しなかった場合の比較に焦点を当てています。ある選手の総獲得ポイント数や総リバウンド数が平凡な成績であっても、その選手が出場した方がチームとしてのパフォーマンスが良い場合があります。このような「プラス/マイナス」分析はビジネスにも応用できます。特定のマネジャーが監督した場合にグループやユニットはどのようなパフォーマンスを見せるのか、そのマネジャーが監督職から離れた場合のパフォーマンスはどう変化するか、などを把握できるようになります。
  5. 分析のアマチュアに焦点を合わせる。一部のスポーツ(特に野球)においては、一人ひとりの選手が自身のパフォーマンスを分析し、分析結果にもとづいて改善プログラムを作成します。ブライアン・バニスター投手が最も良い例でしょう。バニスターは、自身のパフォーマンスについてBABIP(batting average for balls in play)とFIP(fielding independent pitching)を含む比較的あいまいな指標を使って分析を行い、自身のパフォーマンスを多少改善できました。カンザスシティ・ロイヤルズのチームメートであるザック・グレインキー投手は、バニスター選手の影響を受けて自身のパフォーマンスについて同様の分析を行いました。そして2009年にアメリカン・リーグのサイ・ヤング賞(リーグで最も活躍した投手に授与される)を受賞しました。
  6. エコシステムの有効活用。プロ・スポーツ・チームは本質的に小規模企業です。大規模なITを導入したり、分析スタッフを採用したり、独自のデータを収集したり、独自のソフトウェアを開発する余裕はありません。たとえば、オーランド・マジックやサンフランシスコ・ジャイアンツのように賢明なチームは、データ、分析ソフトウェアとハードウェア、およびコミュニケーション分野のIT企業と戦略的パートナーシップを結びました。エコシステムを有効活用する必要があるという点では中小企業も同じです。大規模な企業も、分析リソースを持つ外部サプライヤと戦略的パートナーシップを結ぶことでメリットを得られます。
  7. 分析チームを連携させて組織全体で取り組む。ほとんどのチームは、チームや選手のパフォーマンスを分析するアナリストと、チケットのプライシングやターゲットを絞ったマーケティングなど、ビジネス関連の分析を行うアナリストとの接点を作っていません。小規模な組織であるチームは、これらのアナリスト・グループをひとつにまとめる方が優先順位をつけて問題に取り組みやすくなり、より大きな効果を得られるようになります。NBAのオーランド・マジックやフェニックス・サンズは、これを実行しています。企業の方が早期に組織全体で取り組みを行っていると考えられますが、分析チーム同士が連携していない企業がまだ数多くあります。
  8. コミュニケーションが不可欠。コーチやゼネラルマネジャーが、「計量アナリストが分析や分析結果についてスポーツ関連用語を使いながらわかりやすく説明できなければ、アナリティクスはスポーツの役に立たない」と話すのを何度も耳にしました。アナリストが野球(あるいはバスケットボール、アメリカン・フットボール、サッカー)についての知識を持っていなければ、アナリティクスと意思決定者を効果的に結び付けられないと言われています。これはビジネスにおいても同じです。「データを使ってわかりやすく説明できる」人材を求める意見を毎日のように聞いています。
  9. 技術者と密接に連携する。前述した新しいデータソースの全データを分析する技術は不可欠です。またこれらのデータソースは急速に変化しています。アナリストは、ビデオサーバの管理担当者や、シーズンチケット所有者に関する情報をチームのデータ・ウェアハウスに取り込んでくれる人と密接に連携しなければ、アナリストとしての仕事を十分に果たせません。ビジネスにおいても、アナリスト、マーケティング、人事のプロフェッショナル、および製品開発者は、IT部門と密接に連携する必要があります。スポーツでもビジネスでもアナリティクスはチームスポーツなのです。
  10. 一般の人に分析に参加してもらう。昔からファンの中には、スポーツデータを分析する有能なアナリストがいました。たとえば、ビル・ジェームズ氏は野球、ローランド・ビーチ氏はバスケットボールの有能なアマチュア・アナリストであり、彼らはそれぞれボストン・レッドソックスとダラス・マーベリックスに採用されています。英プレミアリーグのサッカーチームであるマンチェスター・シティを含む一部のチームは、分析を行いたいファンに対して保有する選手やパフォーマンスに関するデータを提供しています。これまでに5,000人以上のファンが登録してデータをダウンロードしています。企業もこのようにデータをオープンにし、顧客に問題解決に参加してもらう取り組みを検討するべきでしょう。
トーマス・H. ダベンポート
トーマス・H. ダベンポート氏は分析分野のパイオニアであり、国際分析研究所(IIA)のDirector of Research兼faculty leaderを務めています。また、ハーバード・ビジネススクールのVisiting Professor、ボストン大学の教授、MIT Center of Digital Businessの主任研究員、Deloitte Analyticsのシニア・アドバイザーでもあります。

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