スマート・ファクトリーをもっとスマートに
IoTが実現する新次元の製品品質
執筆:Futurum Research社プリンシパル・アナリスト、Broadsuite Media Group社CEO(最高経営責任者)、ダニエル・ニューマン(Daniel Newman)
製造業におけるオートメーションの導入は今に始まったことではありません。オートメーションに向けた取り組みは、実に200年近くも前から行われており、製品の生産と品質保証のあり方に大きな影響を与えてきました。では、一体何が新しいのでしょうか?現在、大きな注目を集めているのは、IoTがスマート・ファクトリーを通じて実現する、かつてないオートメーションのメカニズムです。ここでは部品の調達から出荷、そして顧客に届くまでの製品ライフサイクルのすべてのプロセスがインテリジェントにつながります。
IoTが実現する製造業の新たな変革は、第4次産業革命(インダストリー4.0)とも呼ばれています。旧来のさまざまな課題を解消する最新のスマート・ファクトリーは、想像をはるかに超える品質改善(英語)を実現します。IoTによってこれまで分断されてきたサプライヤー、従業員、顧客といったすべての関係者がつながり、製品品質に対するすべての従業員の意識が高まると同時に、顧客1人ひとりのフィードバックが改善に生かされる一貫した製造環境が実現します。
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スマート・ファクトリー:なぜ今なのか?
リアルタイムのサービスに対する顧客の期待が高まる中で、もはやサプライチェーンは手に負えないほどに複雑化しています。それだけに製造プロセスにおいては、これまで以上に徹底した管理が求められています。なかでも大きな問題として挙げられるのが、あまりに頻繁に変化する製品製造の構成要件です。これらはもはや、スプレッドシートや人の手による分析だけで管理することは不可能となっています。そのため、スマートセンサーやIoTを通じて生成される膨大な量のデータを処理する高度なアナリティクスと、そのデータを統合して顧客の要求に遅れることなく応えるための極めて俊敏なプロセスが必要になります。
思い返せば、かつての製造プロセスはまさにシンプルそのものでした。ここでは、工場から出荷された製品はサプライチェーン全体をただ直線的に移動するだけといっても過言ではありません。しかし、グローバルなデジタル・マーケットプレイスの時代となった現在、この状況は一変しました。企業はその時々の需要に応じて製造を行い、世界中の多様なサプライヤーから部品を調達し、顧客サービス担当者に苦情の声が届く前にソーシャルメディアで顧客のフィードバックに対処しています。よりスピーディかつ効率的な製品供給モデルが必要とされるのも当然で、その実現に最適な手段がIoTというわけです。
もちろん、スマート・ファクトリー環境のさらなるスマート化は一筋縄ではいきませんが、ここにはデジタル・マーケットプレイスでの成功に向けて、本気で取り組むだけの十分な価値があります。それどころか、これはすべての企業が取り組まなければならない大きな課題だと言えます。例えば、ある工場では完全自動化の生産ライン、3Dスキャナ、IoTテクノロジーを利用してエアコンを生産することで、リードタイムの短縮とコストの削減が可能なだけでなく、不良品の数も50%減らせることに気付きました。1これはあくまで現時点での試算ですが、今後の継続的なIoTの拡大によって得られるさらなる効果を想像してみてください。
それでもまだスマート・ファクトリーに興味が持てないという方は、IoTが組織にもたらす、次の3大メリットを検討してみてください。
- 製品品質の向上
- 社内生産プロセスの改善
- カスタマー・エクスペリエンス(CX)の充実
データをリアルタイムで処理して迅速に洞察を得られるスマート・ファクトリーによって、原材料や機械の機能、顧客サービスといったすべての要素がその場ですぐに変更できます。ダニエル・ニューマン(Daniel Newman) BMG社CEO(最高経営責任者) Futurum Research社プリンシパル・アナリスト
より高品質な製品
これまでは、工場内の各部署から情報を収集してレポート機能を実行し、さらに顧客サービス部門からのデータを確認する頃には、品質基準に満たない製品の影響がすべての顧客に及んでいました。これでは、すべてが後の祭りです。しかし、製造環境にIoTを導入(英語)することで、この状況は一変します。データをリアルタイムで処理して迅速に洞察を得られるスマート・ファクトリーによって、原材料や機械の機能、顧客サービスといったすべての要素がその場ですぐに変更できます。
例えば、スマートセンサーを使用すれば、衣料品であれ国家機密の防衛設備であれ、直前の完成品とまったく同等の品質であるかどうかを確認できます。このことが製品の破損、顧客の苦情、企業ブランドのイメージダウンといったダメージをどれほど回避できるかについて考えてみてください。
実際、製造環境におけるIoTの何が素晴らしいかというと、欠陥が見つかった場合、さらなる問題が発生する前にその欠陥を自動修復するための機械学習を実行できる点です。人工知能(英語)のおかげで、これまで人間が処理するしかなかった仕事を機械に任せられるということです。しかも、機械はその仕事をほぼリアルタイムで処理できます。これが総合的な製品品質を高め、ロスの低減につながります。
よりスマートなプロセス
製造環境の装置や機械の1つひとつに常時、熟練工の監視の目を光らせておくのは無理な話です。とはいえ、想定外の保守対応ほど大きな損失につながるものはありません。企業は生産ラインの停止による打撃を受けるばかりか、従業員の生産性低下という損害も被ります。現代の競争市場において、それが痛手にならない企業はどこにもありません。
スマート・ファクトリー環境でセンサーを活用することで、製造設備の損傷をリアルタイムで自動モニタリングできるようになります。機械学習では各プロセスに固有の正確なモデルを作成できるため、部品や機械の交換時期の予測が可能です。例えば、製紙工場において断裁刃が劣化すると、紙の切断面が粗くなって売り物にならない可能性がありますが、検査官による目視検査では問題の発見までにかなりの時間を要し、結果として大量の紙が無駄になります。しかし、設備保全の時期をあらかじめ予測することで、断裁刃の交換予定を適切に設定し、このような問題を未然に防ぐことができます。しかも、断裁刃の交換を設備の稼働時間外に実施すれば、生産時間のロスが生じることもないのです。この結果、組織全体で向上する俊敏性こそが、デジタル・トランスフォーメーションの効果です。
ダニエル・ニューマンのIoTトーク:スマート・ファクトリー
IoTがスマート・ファクトリーの将来に与える影響をテーマに、ダニエル・ニューマンとSASのマーシャ・ウォーカー(Marcia Walker)が対談しました。例えば、製造業においては、IoTデータを利用してプロセス、設備、生産性を改善することで、劇的な品質の向上が可能です。
顧客満足度の向上
以前にも述べたとおり、デジタル・トランスフォーメーションの中核にあるのがカスタマー・エクスペリエンス(CX)です2。そのCXを向上する上で、品質の一貫性ほど重要なものはありません。顧客は自分が求め、期待する品質が常に得られると確信しているブランドの元へ帰ってくるものです。そして、そのような品質を実現するのがIoTなのです。
とはいえ、製造業が注力すべき課題は、生産領域以外にもあります。その1つが、スマートセンサーを介して顧客宅で使用される製品から収集されるデータ分析です。この分析によって、製品がいつ故障する可能性があるか、どのように使用されているか、それに応じて製造プロセスをどう調整すべきかをより明確に理解できます。また高度なアナリティクスを利用することで、ソーシャルメディアで発信される製品に関するコメントを迅速に処理し、顧客の苦情にほぼリアルタイムで対応することができます。これこそがまさにエンパワーメント(活用力)です。
スマート・ファクトリーが必要なのは今
McKinsey社のレポートによると、工場におけるIoTの潜在的価値は2025年までに4兆ドル近くに達する見込みです。3他にも、2030年までに世界経済に15兆ドルの利益をもたらすという分析もあります。今、このスマート・ファクトリーの波に乗らなければ、他社に先を越されるばかりです。
では、スマート・ファクトリーへの移行に際しては何が必要なのでしょうか。まず求められるのは、IoTアナリティクス・テクノロジーへの積極的な投資です。社内におけるデータの理解と処理を支援する強力なデータ・ビジュアライゼーション機能を備えたテクノロジーが必要になります。実際、IoTの生成データを処理するためのアナリティクス機能がなければ、せっかくのIoTテクノロジーを採用してもほとんど意味がありません。
そして、次に重要なのは、やはり人材です。未来の工場労働者は、200年前の工場労働者とは根本的に異なります。現代のオートメーションの基盤となっているのは、複雑なアナリティクスを実行し、データに基づき迅速な意思決定を行う、リアルタイム処理に対応した強力なマシンです。IT部門、人事部門、製造部門がIoTの機能に精通していない場合は、研修時間の確保も必要となるでしょう。
よりスマート化された新たなスマート・ファクトリーを構築するためには、企業文化そのものの転換にも取り組まなければならないはずです。これらはいずれも困難な課題ですが、すべてが未来の成長に向けた大きな価値を備えていることは間違いありません。
私とブライアン・ファンゾ(Brian Fanzo)が共同司会者を務めるSMACtalkをお聴きください。SASのマーシャ・ウォーカー(Marcia Walker)を迎え、スマート・ファクトリーについて、また生産性を最大限に高め、ダウンタイムを最小限に抑える絶好のチャンスをIoTとアナリティクスが生み出した背景について語り合いました。
執筆者の紹介
Futurum Research社のプリンシパル・アナリストとBroadsuite Media Group社のCEO(最高経営責任者)を兼任。世界大手のテクノロジー・ブランドと連携し、デジタル・トランスフォーメーションとそれが企業に及ぼす影響について調査。執筆した記事は、CIO.Com、CIO Review、CNBCの他、世界中の多数のサイトで定期的に引用されている。作家(『Building Dragons: Digital Transformation in the Experience Economy』など5作品がベストセラーに)、Forbes、Entrepreneur、Huffington Postの寄稿者、大学院の非常勤教授としても活躍。
参考文献(英語)
The Smart Factory: Responsive, Adaptive, Connected Manufacturing(スマート・ファクトリー:応答性・順応性・接続性に優れた製造環境を実現)
The Seven Laws of Digital Transformation Revolve Around Customer Experience(カスタマー・エクスペリエンスに関するデジタル・トランスフォーメーションの7原則)
The Internet of Things: Mapping the Value Beyond the Hype(モノのインターネット:宣伝以上の価値を計る)
お勧めの資料
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