社会的影響力の増すソーシャルメディアをマーケティング戦略に取り入れる
メリットとリスクを理解し、上手に付き合うために

スペシャルインタビュー:エイベック研究所 代表取締役 武田 隆氏

様々な種類に細かく分岐しながら世界に広がるソーシャルメディア。その中でも、消費者の消費者による聖域であるアーンドメディア(ソーシャルサイト)は、企業側でコントロールすることが難しい。それをカバーするためにオウンドメディア(自社サイト)にソーシャルメディアを取り入れ、ファンのコミュニティを組織する手法に注目が集まってきている。このアプローチの提唱者として知られ、花王、カゴメ、ヨネックスなど、大手企業を中心に300社のサービス導入実績を誇る、株式会社エイベック研究所 代表取締役 武田 隆氏に、企業のソーシャルメディアとの付き合い方について聞いた。

Takashi Takeda

企業におけるソーシャルメディアとは

―― ソーシャルメディアの定義についてどう考えていますか。

ソーシャルメディアとは、「人々の社交を支援するメディア」のことを指します。一般消費者が自ら参加し発言することで作られるメディアです。ソーシャルメディアはこの数年の間に世界中を包み込むように広がり、またその形も多種多様に変容していきました。
歴史も古く、インターネットが登場する前から、パソコン通信はありました。日本では、ニフティサーブ(NIFTY-Serve)がその代表例です。つまり、コンピュータを利用したオンライン上の1対n、n対nのコミュニケーションは1980年代から行われてきたわけで、それがオンライン・コミュニケーションの始まりです。広義では、そこからソーシャルメディアが始まったと考えられます。

―― ソーシャルメディアを含むオンライン・コミュニケーションの特徴はどこにありますか。

そもそも、ソーシャルメディアはインターネットの歴史の延長線上にあります。なので、その本質はインターネットの本質と重なる部分が多くあります。インターネットの歴史を紐解けばその特徴は4つに集約できます。まず、インターネットは、一極集中のリスクを回避するための蜘蛛の巣型の分散型ネットワークなので、フラットで双方向なコミュニケーションがなじむということ。次に、PC(パーソナル・コンピュータ)の開発思想から続く、人間がコンピュータを使うことでインテリジェンスを拡張していくという考え方に基づくため、集合知が形成されるサービスが好まれること。3つ目に、アメリカ西海岸を中心とするカウンターカルチャーに抱かれて育ったインターネットは、交換取引に偏らない贈与贈答の対話が評価されること。最後に、ネットワーク(と、それによって形成される集合知)はインスタントには出来ないので、関係を熟成するための期間が必要となること。なので、短期施策よりも長期施策、単発の賑やかしよりもサスティナブルなサービスが受け入れられます。FacebookもTwitterも、この4つの特徴を満たしています。

―― 実名登録を前提として人間関係をすべてオープンにする Facebook のような仕組みは、日本でも定着するという見解ですか。

本人特定性の高いFacebookのようなアーンドメディアでは、公表していないプライベートな趣味や隠しておきたい感情なども晒してしまう危険性があります。たとえば、競合関係にある複数の取引先と商談を進める営業職の人は、ビジネスの話をオープンにできません。しかし、フレンドを追っていけばたどり着かれてしまうというリスクも生じます。そのリスクを背負ってでも発信を続けていくという個人の動機を提供していくことがFacebookに求められるところかと思います。これから個人の情報開示による問題が増えてくるだろうと予想しています。いずれにしても、ユーザーは、本音と建前を使い分けざるをえず、すべてのコミュニケーションをオープンにするというFacebookの思想を具現化していくのは簡単ではないと考えています。個人が情報開示のレベルを調整すれば良いという意見もあるかもしれませんが、その負荷は想像以上に高いものです。匿名性を維持したまま、社会と繋がるシステムがあれば、一般の個人にとってはベストであろうと思います。

企業がFacebook上に自社の製品・サービスのファンページを作ることも盛んになってきましたが、これにも慎重に対応しなくてはなりません。まず、ロイヤルティ(帰属意識)が知人リストに集中するFacebookでは、企業にロイヤルティを持ってくるのは至難の業です。また、企業にとってアーンドメディアは「アウェイ」の場所なので、他社と比較される場所になります。例えば、化粧品メーカーは、薬事法によって自社商品の効能を発信することができません。なので、消費者の発言も、あるレベルを越えたものは削除するポリシーを設けるケースが多くあります。「ホーム」であるオウンドメディアであれば自社にカスタマイズすることに問題はありませんが、「アウェイ」のメンバーはそうした細かい事情を知りませんから、「発言を一方的に削除された。他のメーカーは削除しないのに」と比較し、企業にマイナスイメージを持ってしまう。このようなリスクが山ほどあります。

―― Twitterについてはどうでしょう。

Twitterは、担当者が直接、顧客と1対1の双方向のコミュニケーションをとりながら関係性を構築できることがメリットであるように見えますが、そこにはデメリットも含まれています。個人と個人が繋がるツイッターのようなソーシャルメディアは、扇状のモデルを描きます。ここでは、担当者を起点に顧客ひとりひとりとコミュニケーションを取っていかねばならず、そのコミュニケーションに掛かるコストは膨大です。それを利益でリターンさせることは相当な高額商品でないと厳しいですが、高額商品の顧客には、他の顧客と同等に扱われることを嫌うものも多く、なかなか難しい状況があります。また、担当者のツイート、話題の振り方にも注意が必要です。ランチや天気の話を振りつつ、3日おきくらいに商品の話題も出していく。発言があまり会社の情報に偏れば読者に引かれてしまうし、だからと言って、個人に寄り過ぎれば成果から離れて行ってしまう。会社を代表するアカウントとなると、当然、言えないことも出て来ます。小さな嘘を付かなければならないことも多く、これが徐々に辛くなって来ます。顧客側も、実際にはわかっているのですが、“お互いに幻想と知りながら構築してきた良好な関係”が崩れてしまうのは厳しいものがあります。

―― 一方で、メリットもありますね

はい。基本的にこの扇状のタイプのソーシャルメディアを有効に活用するためには、あまり双方向を意識せず、メールマガジンのようにプッシュ型の情報配信に徹する形が適しています。ファンを育てる場所ではなく、ファンの活動を表出する場として使います。ツイッターはメールマガジンよりも伝搬力がありますし、気軽に更新出来るのでライブ感溢れる情報発信も可能になります。フェイスブックのファンページの使い方もこれに似たところがありますが、深い双方向性を求めず、ライトな関係構築と割り切れば、十分に機能します。オウンドメディアで醸成したファンの深い愛情を、ファンページを通して一般の顧客や見込み客に告知するという施策です。

中長期のトレンドにおけるソーシャルメディア

―― 企業が自社でコントロールできるオウンドメディアの有効性を説いているのは、そうした背景があるためなのですね。

アーンドメディアとオウンドメディアの組み合わせが重要です。企業がアーンドメディアを使って、消費者とコミュニケーションを取ると、さまざまなリスクに晒されることに注意する必要があります。消費者が悪印象を持てば、炎上という形ではね返ってくることもあります。そのため、コミュニケーションの土台部分はオウンドメディアで作り、丁寧にもてなしを施す。自社の「ホーム」でしっかりと顧客との関係を作り、そのホットな関係を外部のアーンドメディアを使って、広く表出していきます。

Takashi Takeda

―― オウンドメディアの成功例はありますか?

ひとつひとつご紹介していったらきりがないほどあります。それは大きく、新規顧客の獲得施策、既存顧客のロイヤルティ向上施策、顧客の声に傾聴する調査施策の3つに分類されます。ここでは、ひとつだけご紹介します。例えば、弊社がご支援している日本テレビグループのレコード会社である株式会社バップでは、DVDをリリースする際に作品毎のコミュニティを構築してきました。そこは、作品のファン同士がコミュニケーションできる場です。すると、消費者が「このような場を提供してくれてありがとう」と、株式会社バップという企業に対して好意的なイメージを抱くようになり、「この企業が次にリリースするDVDを買ってみたい」という感情を抱くようになりました。「作品は好きだけれどDVDをリリースしている会社は知らない」と考える人が多い中、コミュニティをうまく運営することによって、企業のイメージを向上させ、作品のファンを企業のファンへと昇華させることができた例です。オウンドメディアを使いこなす企業が増えるとともに、このような成功事例が出てきています。最近、国際規模で事業を展開されている企業から、私たちと実施しているソーシャルメディア施策がグローバルで注目されているとの話を聞くようになりました。期待を込めての見解になりますが、ソーシャルメディアをマーケティングで活用する事例、特にオウンドメディアを介して顧客との深い関係を醸成するという施策の先端は、もしかすると、この日本にあるのかもしれないとも思います。

―― こうしたオウンドメディアでの成功例を、アーンドメディアと組み合わせたときにどのような展開が考えられるでしょうか。

まず、伝達の効率が良くなることです。オウンドメディアから生まれる声は、消費者による声であるため、やはり、伝達先も消費者によるソーシャルメディアであれば共鳴し合い、伝搬します。また、傾聴の範囲も広がります。オウンドメディアで聞くことのできるユーザーの声の多くは、コアなファンの発言になりますから、アーンドメディアの住人のライトな発言を広く集めることで、より多くの情報を得ることができます。ファンとライトなファン、または、アンチファンとそれぞれの違いを見比べることで、初めて見えてくる市場のリアリティがあります。

また、顧客リストを持っている企業はソーシャルメディア施策において、かなり有利な立場にあります。強力なブランドや古くからある商品も、ユーザーを集めやすいでしょう。結局、企業が醸成する顧客ネットワークは、ファンから集めるのが最も効率が良いのです。また、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネージメント)システムにソーシャルメディアを連結させることで、より安価で迅速な双方向のコミュニケーションも可能になります。さらに、顧客同士の横の繋がりも分析やプロモーションの対象となります。

今後も、オウンドメディアとCRM、その延長にアーンドメディアを組み合わせた新しいソーシャルメディアマーケティングの成功事例が生み出されていくでしょう。21世紀、企業と顧客の関係は大きく変わっていくかもしれません。

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