「傾聴」戦略がソーシャルメディアマーケティング成功のカギ
―プッシュ型コミュニケーションからプル型への転換で、より戦略的な意思決定を―

スペシャルインタビュー:アジャイルメディア・ネットワーク 代表取締役 徳力 基彦 氏

「ソーシャルメディア」というキーワードが社会に広く浸透してきた。国内でも企業がソーシャルメディアをマーケティング活動の一環として取り入れる動きが出てきつつある。ソーシャルメディアを活用したマーケティングの可能性を啓蒙するアジャイルメディア・ネットワーク 代表取締役 徳力 基彦 氏に、ソーシャルメディアの概念や価値、ソーシャルメディア活用で先行する米国と国内企業の考え方、ソーシャルメディアを企業のマーケティングに利用する際のポイントなどについて聞いた。

Motohiko Tokuriki

ソーシャルメディア上の会話から顧客の本音を知る

―― ソーシャルメディアは、ブログやTwitterなどのサービスをはじめ、Facebook、mixi、GREEなどのソーシャルネットワークサイト、YouTubeのような動画投稿サイトなどを含み、曖昧なイメージのまま定着しつつあります。そもそもソーシャルメディアについてどう定義していますか。

ソーシャルメディアは曖昧な概念で、Web2.0の流れの中で生まれたCGM(消費者生成メディア)の同義語ととらえている人もいます。ソーシャルメディアの定義は諸説ありますが、簡単に言えばだれもが参加できる双方向なインターネットサービスです。ブログ、SNS、動画投稿サイトなどはもちろん、Wikipediaなどのオンライン百科事典、価格.comや@cosme(アットコスメ)のような口コミサイト、掲示板なども含みます。

ここで1つ注意したいポイントがあります。ソーシャルメディアという言葉が、マスメディアと同じようなものとして使われてしまっていることです。ソーシャルメディアに「メディア」という言葉が含まれるためにそうなってしまうのでしょうが、ソーシャルメディアは利用者同士のコミュニケーションに使われているサービスが中心であり、その会話がインターネット上で見えるようになることが、その本質なのです。コメントを受け付けないブログも、読者が記事にリンクを張って自分の意見を表明できます。このように、フィードバックを期待するという点で、一方的に情報を発信するマスメディアとは全く別のものととらえるべきです。

―― インターネットが存在しなかった時代から、インターネット黎明期、発展期を経てソーシャルメディアが誕生しました。ソーシャルメディアの歴史的な価値はどこにありますか。

利用者と企業サイドの視点によって変わってきます。利用者から見ると「プル型」のコミュニケーションをできるようになったことが最大の価値だと考えています。従来の電話や電子メールは「プッシュ型」のコミュニケーションであり、情報の受け手に強制的に返答することを強いてきました。一方、ソーシャルメディアでは、Twitterやブログ、mixiの日記などに見られるように、相手に返事を強制せずにコミュニケーションを取れます。受け手は興味のある情報だけにアクセスすればよいわけで、プル型のコミュニケーションと言えるでしょう。たとえば、主婦が趣味で始めたブログで毎日の食卓に並べる食事のレシピを綴っていると、いつの間にかファンが増え、レシピ本を出版したケースもあります。プッシュ型で、たとえば近所の奥さんに毎日レシピをメールで送りつけていたら、こういった共感はなかなか得られないでしょう。
従来、このように「書いておいたから興味のある人は読んでね」というプル型のコミュニケーションは、メディア企業でなければ難しいものでした。それがソーシャルメディアによって広く一般に開放されたことは、ソーシャルメディアの大きな価値の1つだと思います。

一方、企業にとっては、自社の製品やサービスに対する利用者同士の会話を聞けるようになったことが極めて大きな価値と言えます。シャーリーン・リーとジョシュ・バーノフの共著『グランズウェルソーシャルテクノロジーによる企業戦略』では、「傾聴」(=リスニング)を有効なビジネス戦略と位置づけ、ソーシャルメディア上の会話に耳を傾けることが大切と結んでいます。日本企業では、担当者の大部分が「すでに顧客の声はサポートセンターやアンケート、グループインタビューなどで拾っています」と考えるかもしれません。しかしながら、クレームや怒りの声が届くサポートセンターや、こちらが聞きたいことへの回答だけを求めるアンケート、完全に中立でないファシリテーターの仕切るグループインタビューなどと比べると、ソーシャルメディア上で行う傾聴の本質はかなり違います。従来の手法では、アンケートやグループインタビューを実施する担当者の主観が反映されてしまったり、わざわざクレームを言ってくれる顧客の声だけに振られたりしがちです。一方、ソーシャルメディア上で普段展開されているのは、日常の利用者の会話であり、雑談です。たとえばTwitterで自社の製品名を検索すると、顧客のリアルな声が聞こえてきますよ。
これは、いわば店頭や路上で利用者の雑談を立ち聞きしているような状態ですが、インターネット以前にそんなことをやろうものなら膨大なコストがかかりました。現在ではソーシャルメディアの普及のおかげで、それが大規模かつ効率的に実行できるようになってきているのです。

メディア化したコミュニケーションを可視化することの重要性

―― 企業は利用者の声を傾聴しながら、それをどのようにビジネスに結びつければよいですか。

企業がTwitterアカウントを取得すると、どうしてもフォロワー数を増やして、競合他社よりも多数のフォロワーを獲得したくなるようです。しかしながら、実はTwitterを通じて利用者に情報を届けるという手法は、それほど効率的ではありません。メルマガの方が内容の濃い情報を送付できますし、読まれたかどうかの確認もできますから効果的なのです。つまり、単純にTwitterアカウントのフォロワーが1万人のアカウントだとすると、1万人に向けて配信するメルマガの方が高い価値を持つと言えます。対するTwitterのメリットは、その1万人のフォロワーがそれぞれフォロワーを持っていて、あたかも利用者全員がメルマガを持っているような状態にあることです。そのため、企業だけが情報発信に努力するのではなく、利用者にも情報発信してもらえることになるわけで、これが企業にとってのソーシャルメディアのもう1つの大きな価値と言えます。ですから、情報発信の価値を追求されたいのであれば、単に自社のフォロワーを増やすことに注力するのではなく、Twitterユーザーに話題にしてもらうことに注力することをお勧めしています。類似趣向を持つ友人や知人、利用者が発信した情報は信頼されやすく、コメントが効果的な広告の機能を担うこともあります。私は、これをコミュニケーションのメディア化と呼んでいます。

Motohiko Tokuriki

―― これまでも企業のマーケティング戦略のひとつに位置づけられてきた口コミが、ソーシャルメディアの登場でより重要性が増してきたというイメージでしょうか。

これまでの「口コミ」は時間や場所、話し手の話したいこと、受け手の聞きたいことが同期しないと伝播しなかったため、「女子高生」や「団地の主婦グループ」など、属性で区切られたグループが口コミの対象でした。これに対し、ソーシャルメディアの「口コミ」は接する人を限定せず、時間と場所を越えて非同期に伝播しやすいのが特徴です。たとえば、5年前に私がブログに書き込んだ書評を、今日北海道の人が読んで、その書籍を買うということが起こります。これは本だけでなく、高額商品である家や車でも起こりうる話です。
ソーシャルメディア上の口コミは、従来の口コミと違ってコンテンツとしてインターネット上に残るため、不特定多数の人の目に触れやすくなったわけです。

先ほどの『グランズウェルソーシャルテクノロジーによる企業戦略』では、ソーシャルメディアの利用者を自社スタッフのように社内の業務プロセスに取り込んでしまう「統合戦略」も有効とされています。たとえば、PCメーカーのデルはIdeaStormと呼ばれるWebサイトを開設し、利用者に投稿してもらった意見やニーズを製品開発に生かしています。

マーケティングは、しばしば戦争のレトリックとして語られます。実際に、顧客にしたい層をマーケティング用語でターゲットと呼びます。これは標的を指す言葉ですよね。これに対して、ソーシャルメディアをうまく使えば、顧客があたかも自社スタッフのように協力してくれるパートナーになってくれるのです。製品開発に意見を取り入れた顧客は、製品リリースと同時にエバンジェリストとして活動してくれるかもしれません。応援してくれるファンがブログやTwitterに書き込んでくれることが、ビジネスを加速する原動力の1つになりうるのです。

会話を分析し、戦略的な意思決定に役立てる

―― ソーシャルメディアの活用が先行している米国と比較し、国内企業の対応状況をどのように捉えていますか。

米国では、インターネット人口の6割以上がFacebookを利用しています。多くの既存顧客や潜在顧客が存在するFacebookにファンページを開設することは、もはや当たり前と言っていいでしょう。2008年11月の米大統領選挙においてオバマ民主党陣営がFacebookやTwitterを活用して勝利を収め、ソーシャルメディアの価値を世の中に知らしめたことも、背景にあるでしょう。

一方、日本では国内SNS大手のmixiやGREE、モバゲータウンでそれぞれ2,000万人強の会員数です。これは大きな数字ではありますが、「ソーシャルメディアを使っているのは日本のネット利用者の3分の1にすぎない」ととらえることもできます。そう言う意味では、日本企業にとっては、「ソーシャルメディアに積極的に参入するにはまだ早いかな」と考えるレベルなのではないでしょうか。ただ、中長期的にはソーシャルメディアの利用者が増加すると見ている企業は多く、現状はソーシャルメディア戦略を練り始めている段階と言えるでしょう。

―― 今後、企業がソーシャルメディアを活用していく上でアドバイスや注意したい点があれば教えてください。

やはりまずは「傾聴」から取り組むことに尽きるでしょう。ソーシャルメディア上で展開されている自社の製品やサービスについての会話を聞き、これを競合調査やマーケティング調査などに活用しない手はありません。そこには、プッシュ型のアンケートでは得られない顧客の本音が集まっています。

現在、ブログやTwitterにおける投稿内容を検索できる無料ツールも現れていますし、より高度な分析をしたければ、有償の優れたソリューションを利用できます。たとえば、商品名で検索するとその商品について言及した人が「いつ」「どれだけの数」いたかを知り、「どんな具合で」話題にしていたかを見られます。

ブログやTwitterの発言件数と自社Webサイトのアクセス解析データなどを組み合わせると、顧客心理の移り変わりも見えてきます。たとえば、「テレビCMを見た人が自社のWebサイトにアクセスしているか」「CMを打つ前と比較して自社Webサイトの閲覧件数がどのくらい増えたか」「Webサイト閲覧後に再度話題にしているか」、などをある程度把握して顧客への洞察を深めることができます。企業は、ソーシャルメディア上に投稿されたコンテンツを分析し、自社の製品およびサービスについての評判をリアルタイムに可視化することで、これまでとは全く別の切り口からの知見を獲得することができるでしょう。

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