スマートシティーとスマート・エネルギー・ソリューション - IoT活用例

執筆: アン-リンゼイ・ビール(Anne-Lindsay Beall)、「SAS Insights」編集者

NPOのEnvision Americaは4年前、最初のエネルギー・イニシアチブを立ち上げました。これはノースカロライナ州シャーロット市、Duke Energy社、ノースカロライナ大学(UNC)シャーロット校、地元企業とのパートナーシップを通じて、市中心部の大型ビル群でエネルギー消費量を20%削減しようという取り組みです。

非常に高い目標でしたが、同イニシアチブにはシャーロット市の中心部に林立する高層ビル64棟のうち61棟が署名して参加しました。そして、シャドーメーター(検針や請求のミスをチェックするために本来の電力メーターに追加して併設するメーター)や、エネルギーコストや電力消費量を分かりやすく表示するパブリック・キオスク(駅などの公共の場に設置されている情報端末)を活用する形で、ビルの管理者、テナント、住民が協力して事を進めました。照明をこまめに消す、使っていないPCモニターの電源コードを抜く、室温を調整する、清掃業務を見直すといった取り組みを実践したのです。

「シンプルな変化の積み重ねが大きな結果につながりました」と話すのは、Envision Americaのエグゼクティブ・ディレクターであるエイミー・オーシーカー(Amy Aussieker)氏です。「エネルギー消費量が17.2%減り、1,800万ドルを節約できました」

このプログラムが大成功を収めたことから、ホワイトハウスはEnvision Americaに対し、米国政府のスマートシティー・イニシアチブへの参画を要請しました。このNPOは最近、シャーロット市以外の10都市(ニューヨーク市、ロサンゼルス市、サンディエゴ市、ダラス市など)と共同で短期集中講座を開催し、スマートシティー・プロジェクトに関する学習会を行いました。

マット・クラウチャー(Matt Croucher)氏、CPS Energy社、デマンドサイド・アナリティクス担当ディレクター

CPS Energy社の成功を核心で支えるアナリティクス

一方、テキサス州サンアントニオのCPS Energy社は、市有の公益事業会社としては米国最大の規模を誇り、1,515平方マイル(約4,000平方キロメートル弱)以上の地域で110万件を超える需要家にサービスを提供しています。ソーラー発電量に関してはテキサス州で第1位、全米でも第7位です。また、デマンド・レスポンスもテキサス州第1位であるほか、同社の需要家のエネルギー使用料金は全米で最も低い水準にあります。

CPS Energy社は、こうした実績をどのように実現しているのでしょうか?その答えは、HadoopによるストレージやSASのビッグデータ・アナリティクスなどから構成される柔軟なアーキテクチャを活用して、データから多くの価値を見つけ出していることです。「最大の利点は、需要家が望む商品やサービスを展開するために役立つことです」と、デマンドサイド・アナリティクス担当ディレクターのマット・クラウチャー氏は語ります。

「アナリティクスは弊社のコア・コンピテンシーとなるべき領域です。今では、スマートメーター、接続されたデバイス、分散されたエネルギー源の活用によって、以前よりも遥かに大量のデータを収集できるようになっています」

オーシーカー氏とクラウチャー氏は先日、SAS Global ForumにおいてSASエネルギー事業部門ビジネス・ディレクターのティム・フェアチャイルド(Tim Fairchild)が司会を務めたエグゼクティブ・パネル・ディスカッションに参加し、会社の戦略、課題、成功事例に関する質問に答えてくださいました。以下に、その抜粋を掲載します。

フェアチャイルド:スマートシティー戦略においてデータ戦略はどれくらい重要でしょうか?

オーシーカー氏:極めて重要です。大きな変更の導入に先立って適切な意思決定を行うために役立ちます。データは何かを実行するのに何が必要かを前もって教えてくれるので、成功の確率が高まります。できるかぎり多くのデータを集め、達成が容易な領域を探した上で、そこから始めるのです。データが全ての鍵を握っています。

アナリティクスはどのような役割を果たすのでしょうか?

オーシーカー氏:複数のレベルで貢献しています。ビルの状況を検討したときには、Duke Energy社がアナリティクスを活用して、ビル管理プロセスに対する理解を深めてくれました。市の管理者がスマートメーターのデータを検討するときは、漏れ検知のレイヤーでアナリティクスが機能します。事を進めるための推進役として全てのプロセスにアナリティクスを活用しています。

クラウチャーさん、あなたが働いているのは保守的な業界だと思うのですが、モノのインターネット(IoT)に伴うリスクを敢えて冒す理由は何でしょうか?

クラウチャー氏:IoTから収集されるデータが需要家サービスの改善に役立つからです。信頼性の高い安全なサービスを継続的に提供しながら需要家中心の経営姿勢をさらに強化していく方法を考えた場合、IoTデータを効果的に活用すれば、昔ながらの基本業務を円滑に遂行できようになるのみながらず、需要家対応において「マスセグメンテーション」や「マスパーソナライゼーション」といった手法を活用することも可能になります。

省エネの実現にとって最大のハードルは何でしょうか?

クラウチャー氏:エコノミストである私にとって実に興味深い質問です。需要家は、公益事業会社が当然と考えるソリューションを必ずしも導入してくれるとは限りません。多くの省エネ・プログラムが本質的に抱える収益率がらみの障壁をどのように克服するかを考えた場合、公益事業会社としては、提供しうる最良の商品やサービスが何かを見極めなければなりません。

例えば電灯の電力消費は、長年にわたり安定した「おいしい」収益源でしたが、今では、需要家に節約機会を提供し続けるために、発想を転換して独自の商品やサービスを開発する必要が生じています。調査結果で繰り返し示されていることですが、需要家にとっては支出を節約できることも重要ですが、最も重視しているのは使用量と快適さを主体的にコントロールできることなのです。これは単に料金の割戻しをすればよいという問題ではありません。需要家と公益事業会社の双方に価値をもたらす最適な方法でプログラムを導入するにはどうすればよいのでしょうか?
また、現在および今後10~20年間の需要家が望むサービスとは何でしょうか?公益事業会社はこうした疑問に答えを出していかなければなりません。

オーシーカー氏:省エネを妨げる最大のハードルの1つは、多数の異なるソリューションが乱立している状況です。テナントから不動産管理者にカーペットや壁紙などについて、あれこれ苦情が寄せられることを考えても、省エネ対策としてベストなソリューション製品を見つけることは難しい課題です。

私たちはUNCシャーロット校の学生や教官に依頼して、校舎の利用状況の調査とエネルギー使用量の評価を行ってもらいました。例えば、学生が1人だけ遅くまで残って勉強している場合、施設管理者は教室の照明を制御する必要があるでしょうから、照明制御に関する提案があれば検討したいと考えるでしょう。これは複雑なプロセスです。大企業なら、これに対処できる専門家もいるでしょうが、中小規模の企業やビルでは人材を確保することができません。

アナリティクス、スマートグリッド、省エネ、デマンド・レスポンスをすべてうまく組み合わせるには、どうすればよいでしょうか?

クラウチャー氏:これらを連携させるのは、これら全てが需要家の選択を尊重し、需要家の主体的なコントロールを実現する取り組みに関連しているからです。公益事業会社が需要家に「これは弊社で管理できないので、ご利用いただけません」などと言えば、需要家にとってのエネルギー・アドバイザーとしての立場を失うことになります。スマートメーターの導入後、ほとんどの公益事業会社は先を争って「弊社はこのような情報を需要家の皆様にご提供しました」とアピールしましたが、それが何だというのでしょうか?使用量を主体的にコントロールできるツールやオプションを需要家に提供しない限り、本当の意味で興味を持ってもらうことはできません。

公益事業が豊富なデータにもとづいてスマートグリッドを活用し、都市のスマート化を補完・促進している事例をご紹介いただけますか?

クラウチャー氏:弊社では、構築すべきシステムの規模を判断し、適切な疑問を提起できるようにするために、アナリティクスを活用しています。具体的には、「システムの規模を大きくする必要があるか?」、「サイジングのパラメータ群を再考する必要があるか?(これは使用量が減少傾向にある環境では特に重要です)」、「トラブルが特に多い地域にもプログラムを導入できるか?」、「どのアプローチが最もコスト効率に優れているか?」といった疑問です。

また、「スマート」とは、やみくもに料金を安くしたり、水や電気の使用量を減らしたりすることではありません。例えば、交差点の街路灯の電力をけちったせいで交通事故が増えるのでは、本末転倒です。スマートシティーというコンセプトでは、単に消費効率を高めればよいのではなく、情報の有効活用が重要です。正しい情報を市民に素早く届け、誰もがスマートな意思決定を行えるよう支援するにはどうすればよいか?これを考えることが、都市の効率化につながります。

アナリティクスの文化やスマートシティーの概念がもたらす価値とは、どのようなものでしょうか?

オーシーカー氏:それに関しては、どうすれば全てのメリットを市民全員にとっての価値に落とし込めるか、という点が重要だと思います。遅々たる歩みかもしれませんが、スマートメーターによってコスト削減や環境保護に貢献する選択肢が実現しており、幅広い人々に向けた幅広いメッセージが溢れています。結局のところ、誰もが安全かつ清潔な環境で隣人たちと幸せに暮らしたいと願っていますから、スマート・テクノロジーはその実現に寄与する必要があります。データとアナリティクスはその達成に役立ちますが、具体的な価値に落とし込むことが難しい場合もあります。

シャーロット市では、全てを経済発展面の価値に落とし込みました。スマートシティー化により、シャーロット市では企業活動が容易になっています。例えば、市が公益事業の料金を下げれば、シャーロットに本社を移転したいと考える企業は増えますよね。

データ・サイエンティストについては、どのようにお考えですか?高まるニーズを満たせる数の人材は育っているのでしょうか?

クラウチャー氏:大学は技術スキルを教えることには熱心ですが、ビジネスの側面を教えていません。公益事業会社のデータ・サイエンティストは、完全とは程遠いデータの扱いに慣れる必要があり、データ・クレンジングの作業やデータの意味を理解する作業に多大な時間を費やすことになります。アナリティクス科目の教授に求められているのは、最初にダーティーなデータセットを学生たちに与えてクレンジング作業を体験させ、その上で、「データ収集・分析の領域におけるビッグデータ・アナリティクスへの投資価値を証明せよ」といった課題を与えることだと思います。

オーシーカー氏:シャーロット市ではオープンなデータポータルを開設しており、多くのデータ・サイエンティストが市の業務に従事していますが、ここでも「価値の翻訳者」が必要です。データ・サイエンティストに市の管理者をあてがうだけでは、互いに理解のギャップを感じると思います。スマートシティー・イニシアチブを成功させるためには、「アナリティクスからどのような情報が引き出せるかを理解した上で、市のプログラム責任者たちが新たな機会を理解できるようにその価値を説明する」という役割を果たす、仲介役の人間が必要になるのです。

クラウチャー氏:データ・サイエンティストは事業部門/業務部門と緊密に連携する必要があります。事業部門/業務部門の側でも、話が通じるように、アナリティクスについて多少の勉強は必要です。

エイミー・オーシーカー(Amy Aussieker)氏、Envision Americaエグゼクティブ・ディレクター

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