ビッグデータがCMOとCIOの協力体制をつくる

執筆:David Ward

あらゆるデジタル技術で人々がつながるいま、顧客中心の戦略は、ビジネスの明暗を分けるカギだ。しかし、その立案には、数々の困難が待ち受けている。マーケティング部門とIT部門の連携体制の実現も、容易ではないと言われてきた。しかしビッグデータは、そのような状況を変えるかもしれない。ビッグデータはすでに、カスタマー・エクスペリエンスやブランド価値を向上させるツールとして活用されている。つまり、マーケティングとIT部門間の緊張関係を解消し、部門を超えたコラボレーションを職場に定着させることで、企業文化そのものを大きく変える可能性を持っているのだ。

Forrester ResearchのVP兼上級アナリスト、Sheryl Pattek氏は、「ビッグデータは、マーケティングとITの両部門の上級管理職の間で、最も注目される話題のひとつになりました」と語る。「注目が高まった最大の要因は、IT投資に起こった変化です。これまでのIT投資は、バックオフィス機能を対象にしていました。しかし最近の投資対象は、フロントオフィスに近い、顧客対応寄りの機能へと変化しています」(Pattek氏)

このような変化は、CIOとCMOの双方に影響を与えるだろう。

米国ボストン郊外にあるBentley大学で、マーケティング・テクノロジー・センター長を務めるIan Cross教授は、「ITとマーケティングはどちらも、企業の中で多大なプレッシャーにさらされている部門です。IT部門は、顧客に対するアプローチのように、バックオフィス向けにとどまらず、ビジネスを支える役割を要求されています。一方のマーケティング部門は、実際に企業の利益を増やして、その実力を証明しなくてはなりません」と語る。

市場競争にさらされている企業は、これまで続けてきたアプローチを変えざるをえなくなっている。市場をあっと驚かせるような新たな商品やビジネスを追求する立場を離れ、これからは科学や分析寄りの視点を重視し、少額の投資からでも確実にROIを上げなければならないのだ。

幸運にも、CIOとCMOが管轄するどちらの部門も、目標を達成するためにビッグデータと互いの協力が不可欠であることを理解している。

オーディオテクノロジーのパイオニア、Plantronics社のマーケティング部長兼CMOを務めるMarilyn Mersereau氏は、「ITとマーケティングの協力は、いわゆるお見合い結婚のようなものです」と話す。「もともと、両部門に共通点はほとんどありません。マーケティング部門の考え方はいわば“右脳型”で、一方のIT部門は“左脳型”だと思われがちです。しかし、結婚するまでお互いを良く知らなかった夫婦のように、想像していたよりも多くの共通点を見つけることで、互いをパートナーとして認め、受け入れるときが来ます」(Mersereau氏)

Mersereau氏自身、Plantronics社のCIOをはじめ、IT部門と良好なパートナー関係を築いていると語る。「弊社では、マーケティング部門が技術的な課題にぶつかると、必要なツールの購買判断をIT部門に委託します。バックエンドと統合可能なツールかどうかを確認してもらうのです」(Mersereau氏)

Plantronics社では最近、顧客や顧客行動への理解を促進するツールの導入を検討している。Mersereau氏は、「データ分析は、顧客行動の予測を可能にしました。これによりPlantronicsでは、人々がWebサイトを訪問するタイミングを見極め、彼らが求めるコンテンツを事前に用意できるようになりました」と語る。同社では近年、ソーシャルメディア・マーケティングに力を入れはじめたことで、IT部門が重要な役割を果たすようになり、ソーシャルメディアからのデータ集約と分析を可能にする方法を模索していた。

「Plantronicsにおいて、マーケティング部門がソーシャルメディア向けモニタリングツールの導入を検討した際に、IT部門は重要な補佐役を務めました。おかげで、導入候補の中から、社内のCRMアプリケーションと相性が良く、ソーシャルメディアを通じた顧客とのやり取りを、次世代製品の企画や、顧客サポートなどのアフターサービスの改善に生かせるツールを見つけ出すことができました」(Mersereau氏)

モバイル版ランディングページやeコマースサイトを訪問した顧客のデータから、次の戦略に生かせるような洞察を引き出す。このことは、ビッグデータにかけられた大きな期待のひとつだ。

Bentray大学のIan Cross教授は、「たとえば、自社製品の販売データを少なくとも1年~3年にわたって集約し、各顧客の行動や、購入に使った金額を詳細に解明してから、心理的変数や人口統計にもとづき、行動別にセグメントします。そうすれば、顧客が次に取る行動について、予測モデルを作成できます」と話す。

部門間の「縦割り志向」を打ち破る

Chief Marketing Officer Council(CMO Council)とSASが共同で発表したレポートによれば、ビッグデータは今後、マーケティングとITの連携を固める接着剤の役目を果たす。一方、同レポートの土台になった調査からは、多くの課題も浮かび上がった。調査に回答したCIOやCMOのうち、「自社のCIOあるいはCMOと、あらゆる面で協力関係を築いている」と回答した割合は20%以下にとどまったのだ。

こうした結果にもかかわらず、CMO Councilのバイス・プレジデントであるLiz Miller氏は、状況が改善していることを指摘する。4年前の調査では、CMOとCIOが対立するケースが多いという結果が出ていたためだ。「当時は、Webサイトやeコマース部門、デジタル・マーケティング・プラットフォームの管轄権をめぐり、CIOとCMOが対立していました」(Miller氏)。しかしMiller氏によれば、この問題がおおむね落ち着いた現在、CIOとCMOの両者はビッグデータに直面し、データを理解する必要があるという認識を共有しているという。

SASとCMO Councilが発表した調査結果には、大多数の企業に存在する「部門別の縦割り思考の課題」をなくす試みのヒントが多く含まれている。消費者向けの戦略を新たにまとめる際、できるだけ早い段階で、CMOとCIOが話し合う場を作ることもそのひとつだ。

「私たちCMOに対して、複数のCIOから『CIOを、マーケティングに向けたテクノロジーの選定に参加させるのは、素晴らしい案だ。今度は、顧客エンゲージメントの効率戦略を立案する場にも最初から呼んでほしい』という声が届いています。CMOはCIOから質の高い情報を得て、マーケティング・ダッシュボードやチャネルに適したデータを、素早く選り分けられます」(Miller氏)

Miller氏は、Juniper Networks社の成功事例を挙げる。同社では、CMOとCIOが単に共同で課題に対処するだけでなく、互いの協力関係を評価し、部門間の提携度合いを最大限に引き上げる方法を模索しているという。

同調査では、ビッグデータ関連の業務で、CIOとCMOが役割分担を明確に定める必要があることも明らかになった。CIOは、データの取得源を決定する責任を負い、CMOは、データから有用な知識を引き出す分析作業に集中する。「両者がこの役割分担を受け入れ、各自の仕事を理解すれば、企業は大きく前進します。顧客体験の改善を阻害する一番の要因は、各部門の縦割り構造に他なりません」(Miller氏)。

ただし、その実現は決して容易ではない。ForresterのPattek氏は、業種や企業規模に関係なく、マーケティングとITの共同作業は難しいと考えている。「CMOは、収益の増大や顧客体験の改善を目指しています。他方、CIOは、コストやリスクの削減に取り組んでいます。この2点の両立は、場合によっては困難です。しかしCIOとCMOがビジョンを共有すれば、プロジェクトや予算の管轄権と同じく、そのような懸念は解消されるでしょう」(Pattek氏)。同氏は、目標の共有を可能にするために、CMOも技術やデータに精通しなければならないと話す。

「企業はいま、データを通してあらゆる角度から顧客についての知見を得ようとしています。その先頭に立つCMOは、テクノロジーを活用し、CIOとの協力体制を実現するべく、共有可能なビジョンを立ち上げようとしているのです」(Pattek氏)

2部門で1つのゴールを共有

CIOとCMOは、常に完璧な同調を求められるわけではなく、その必要もない。しかし、NASA Federal Credit Union(NASA FCU)でマーケティング担当バイス・プレジデントを務めるMatt Kaudy氏は、企業全体に協力意識が必要だと語る。

NASA FCUは、NASAの前身NACA(National Advisory Committee for Aeronautics/国家航空宇宙諮問委員会)の職員に金融サービスを提供するための組織として設立され、その後、あらゆる消費者を対象にした総合金融機関へと成長した。Kaudy氏は、1969年の月面着陸を可能にしたNASAの協力精神が、FCUにも息づいていると語る。「CEOをはじめ、FCU全体の組織文化は、非常に協力的です。技術部門のサポートや、彼らが提供するデータなしには、マーケティング戦略の成功は実現しません。それらがあってはじめて、私たちは消費者に最適な商品を提供できるのです」(Kaudy氏)。

NASA FCU技術担当バイス・プレジデント、Tim Burch氏も同意見だ。「幸いにも、FCUではこれまで、マーケティング部門と技術部門の間であまり大きな問題が持ち上がったことがありません。その理由のひとつは、各部門が組織内で互いに独立することなく、ゴールを共有し続けてきたからです。目標の達成方法については、常に意見が合うわけではありません。しかし私たちは、目標達成のためには他の部門との協力を惜しみません」(Burch氏)現在、FCUの多くの顧客は、直接支店を訪れることなく、携帯電話やモバイルデバイスを通じて取引を行うようになった。一方で、Burch氏によれば、顧客同士の情報のやり取りは活発になった。このような背景が、マーケティングとITの協力を後押ししているという。

「普段からの会話に加えて、FCUのマーケティング部門とIT部門は、月単位でミーティングを開き、翌月の見通しについて話し合う場を設けています。ひとつの部門が取り組むプロジェクトが他部門の業務に影響を与えるとは限りません。しかしミーティングでは、お互いの取り組む内容について、少なくとも情報を公開するようにしています。そのようなプロジェクトが、他の部門の業務を完全に変えてしまう可能性もあるからです」(Burch氏)。同氏によれば、マーケティング部門とIT部門が連携を維持するもうひとつのカギは、両部門が互いに何を目指しているのかについて説明する時間を取ることだという。多くの企業は、迅速に業務を進めようとするあまり、このような地道なステップをよく見過ごしてしまう。

「私たちはマーケティングの視点から、顧客の獲得につながる要素や、設定した目標をもとに取り組んでいる業務内容を整理しています。技術部門はこの方法で、セキュリティ以外の視点からデータを把握し、その後にマーケティング部門との間で妥協点を話し合います。そうして、互いのリソースから生じる課題や、データ・セキュリティの視点から見た場合の課題について、理解を深めるのです」(Burch氏)

最終的に、ITとマーケティングの連携実現には、常時の協力が求められないような状況でも、両者が共通のゴールを目指して積極的に取り組む姿勢が必要だ。データ・ウェアハウスに十分な量のデータが集約され、それらを活用して顧客の行動を予測できる手段があれば、あらゆる関係者は、その先のビジネスを想像してわくわくするだろう。

「IT部門の仕事は、このようなデータをすべて集約し、透明性が高く、企業の目的に応じて活用可能な形にすることです」とBentley大のCross教授は語る。「今日のマーケティング部門は、大規模なパーティーや撮影会、ブランドイベント開催してきた従来の役割から抜け出さなければなりません。マーケティング部門はいま、顧客の行動予測を通じて、各製品がどの目標を達成し、どのような性質の顧客を引き付けるか明らかにできます。それらを通じて製品に対する自信を引き上げられることが、マーケティングの魅力なのです」(Cross教授)。

CMOとCIO協力体制のベスト・プラクティス

ビッグデータについては、あらゆる企業に対応し、CMOとCIOの協力関係を実現可能なソリューションは存在しない。しかし、重要なプロジェクトにおいて、マーケティングとITの連携に役立つ要点をまとめた。

  • 要点① 互いの視点を共有するミーティングを定期的に開くこと。
    IT部門とマーケティング部門は互いに協力するだけにとどまらず、組織内のさまざまな部署に働きかけるべきだ。皆と同じ場で話し合う機会を持てば、プロジェクトについて意見を交換できるだけでなく、カスタマーサービス部門などの他部門が、マーケティング主導の業務に与える影響を把握することも可能だ。
  • 要点② ミーティングにCEOを参加させること。
    CMO CouncilとSASが新たに実施した調査では、CIOとCMOが良好な協力関係を築く企業ほど、CEOが顧客対応に対する重い責任を認識している傾向が見られることがわかった。CEOがビッグデータをめぐる話し合いの場に同席すれば、マーケティングとITの両部門が、予定表の確認を進めるだけでなく、顧客を引きつけるビジネスモデルを実現するという本来の役割を認識しやすくなる。
  • 要点③ 早い段階で話し合うこと。
    ビッグデータ関連プロジェクトに必要なITインフラについて意見を交換するタイミングは、インフラの導入直前ではなく、顧客獲得戦略を形成している時期だ。
  • 要点④ 互いの部門で使われている用語を勉強すること。
    CMOやマーケティング部門のスタッフは、専門用語に混乱しないためにも、ITについて十分な知識を持つ必要がある。これは、CIOの懸念事項で、ビッグデータ関連プロジェクトの実現にも影響を与えるセキュリティや予算の問題について理解を深めるのにも役立つ。
  • 要点⑤ マーケティングとITの両方を理解した人材を探すこと。
    マーケティング関連のテクノロジーは、とりわけ大学院に創設される科目としても注目を浴びている。新卒レベルでは、マーケティングとデータ活用業務の両方について見識を持った、数多くの才能ある人材を発見できる可能性がある。

この記事は、全米広告主協会(Association of National Advertisers)が発行する
ANA Magazineに掲載されました。

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