Data Scientists Special Talk Session
データサイエンティストが語るアナリティクスの現在と未来

【 後編:データサイエンティストが切り拓く未来 】(4/4)

フィードバック・ループがかたちづくるシステム

―― ありがとうございます。この鼎談は、現在ブームともいうべきビッグデータ分析のお話から始まって、データサイエンティストの資質や役割といった本質的な部分にまで進んできたわけですが、それでは今後、この世界はどういった動きを見せていくのか、お考えを伺えればと思うのですが。辻さん、いかがでしょうか。

 両方に関わる話になりますが…まず、「データサイエンティスト」という名前がいつまであるのかはわからないですけれども、この仕事自体は消えないでしょう。加えてこの仕事の一部は、機械が代替していくと予想されています。いわゆる機械学習ですね。自動的にモデルが作られるといったことが、一般化していくだろうと思います。

―― それはこれからの時代、たくさんのモデルが必要になるということも意味しているんでしょうか?

 それもそうですね…。うむ、いい問いですね。予測モデルがあまり使われていないとお話ししましたけれども、今後は予測自体の精度、解像度は上がってくるんですよね。それは、データの生成先が増えてくるから。例えばセンサーが増えて、デバイスが増えて。

―― なるほど、生成先そのものが増えてくる。

 そこから集めた入力データのアウトプットは、ループしてその入力元に返すのが、実は正しいんです。
例えば「エラーが発生しています」という信号を発したセンサーに対しては、「こう直しましょう」という補正の信号を返してあげて、自動的に良い方向に動かしていく。「こういう商品を買いたい」とカートに入れたそのデバイスに対して、次に「こんな商品がおすすめですよ」と返していく。それが繋がって、初めてシステムができあがると考える。
発信するデータが増えれば増えるほど、そこに対して答えを返さなければいけない。こうしたモデルは今後、飛躍的に増えていくはずです。というか、もう増えていなければいけないくらいですよね。

―― 山下さん、お話を受けて、いかがですか?

山下 先程の、基幹系と情報系が1つになる話とちょっと似ていますが…結局、出てくるデータを何のために使うかという問題だと思うんですね。センサーならセンサーがデータの出元となり、最終的にはそれ自体を直す。情報系と基幹系に分かれていたシステムが、新しいループで繋がっていく。そういう感覚は、私も持っています。
そこで…これはそもそもの話になりますが、ビッグデータ以前の時代から、なぜ情報系は必要とされてきたのか。私の考えでは、情報系というのは、基幹系システムのパラメーターを作っているようなところが、少なからずあるんです。

―― 今、本質的というか、非常に大事な部分をお話しいただいている気がします。

IoTとAIが生み出す、新しい世界

山下 以前から、そんな風には思っていたんですが。そのスピードがものすごく早くなってきて、今やもう粗結合ではなく、密に結合しないと勝てなくなってきている。競争優位性を保てない。そういう時代を強く実感していますね。

―― 基幹系システムがあって、その外側に別途ビッグデータがあるわけではなくて、それらがまとまった、1つの新しいシステム・運用になっていくイメージでしょうか?

山下 システムとしてのあり方は、どちらでもいいのかもしれないですけど。少なくとも基幹系のミッションクリティカルのシステムにフィードバックがかかるかたちには、なっていくんじゃないでしょうか。

―― なるほど。孝忠さんはいかがでしょう?

孝忠 これまではビッグデータというキーワードが先行していたと思うんですけど、今はどう言っているかというと、IoT、及びAIという風に変わってきているんです。単に言い方を増やすだけというのはあまり良くないんですが、基幹系システムと紐づくことの意味が、そこに込められていると思います。

ビッグデータを「貯めずに使う」

孝忠 ビッグデータというと、おそらく「貯める」というイメージが何となくあったりとか、今まで埋まっていたものを活用しよう、みたいな言葉の現れ方だったと思うんですが、そうではなくて…何ていうんでしょうかね、山下さん。

山下 貯めておいたら、もう遅い?

孝忠 そう、貯めるんじゃなくて、もう、すぐに使うといったイメージ。

―― それは非常に面白いですね。ビッグデータという言葉には「たくさんのデータをどこかに貯めている」というイメージが暗黙裏にセットになっていると思います。しかし、そうではないと。

情報系と基幹系に
分かれていたシステムが、
新しいループで繋がっていく。
そういう感覚は、私も持っています。

 データはビッグにどんどん発生してくるんですけれども、見据えるべきは、それを貯めて処理する、その次のフェーズですよね。発生元に情報を返す。あなたはこうだよ、今はこうですよと。

孝忠 それを、いかに早く回していくかですね。

―― それが例えば機械学習であったりAIであったり、それらが普及していく理由にもなるということでしょうか。

 そうですね。そういった場で、データサイエンティストは活躍していかなければいけない。先程お話しした、もっともっとデータを作る必要があるというのは、そういう意味でもあります。

―― 大きなところにお話が広がってきましたね。冒頭では、データサイエンティストとはビッグデータに対して何かを行う人、くらいの部分から始まりましたが、基幹系と情報系が1つになっていく今後の世界で、そこから知見を見出す人、という風に議論が発展してきました。
となると、データサイエンティスト=メインのシステムに深く関わる人、ということもできるわけですね。

孝忠 そうですね。完全にビジネスの領域、業務の中に入っていくかたちになる。

山下 既にもう、そういう時代に入っているのではないかと思います。

データサイエンティストならではの感動体験を

―― それでは、最後になりますけれども。NECのデータサイエンティストである孝忠さんにご参加いただいておりますので、この記事の読者である、日々、SASを使ってデータ分析をされている方々に、メッセージなどいただけますでしょうか。

孝忠 そうですね。繰り返しになりますが、アドレナリンが出るような瞬間を、ぜひ味わってみていただきたいです。どうしても、データサイエンティストという言葉には特殊なイメージが付きまとうんですが、実際には、今日お話しさせていただいたように、そんなことはなくて。

 ログデータを見て、アドレナリンを出しているだけでもかなり特殊な気が…

一同 (笑)

孝忠 この雰囲気といいますか、感動をわかり合えるようにしたいと、そう思います。

 今この段階では特殊性に見えているのかもしれませんが、この感性や考え方が広く一般化するといいですよね。

孝忠 そうです、そうです。データサイエンティストというのは特殊な職業で、一部の人しかできないものだという世界観が、何となくできつつあるような気もしているので、そうじゃないんだとお伝えしたいですね。私たちが行っているのは、普段の業務の中で閃いたりすることがあるのと、あまり変わらない部分も多いので。
今はデータ分析を始めるための製品・サービスが充実してきていますので、そういったものを上手く利用していただいて。データサイエンティストならではの感動体験を、1人でも多くの方々と分かち合いたいと願っています。

―― 孝忠さん、どうもありがとうございました。

Data Scientists Special Talk Session (JP)

このたびは特別企画として、前編・後編と2号に分けて、データサイエンティスト鼎談を掲載させていただきました。
言葉の定義に始まり、データサイエンティストとしての考え方、さまざまなエピソード、そして今後のあり方に至るまで、幅広く密度の濃いお話を伺えたのではないかと思います。本鼎談が、日々データ分析に取り組んでいらっしゃる皆さまのインスピレーションとなれば幸いです。〈完〉