顧客のスピードでビジネスを
リアルタイムアナリティクス時代の到来

執筆:Vincent Cotte, Product Marketing Manager, SAS, South East Asia

現在、企業・組織はこれまでの製品中心主義から顧客中心主義に変遷しつつあります。あるアジア有数の保険会社のCIOは、新しい企業信念として「顧客スピードでのビジネス展開」を挙げ、次のように述べています。

今日の消費者は、オンライン購入や送金、荷物追跡、ソーシャルコミュニケーション、店頭購入にいたるまで、シーンを問わず、瞬時に結果が得られなければ満足しません。消費者がウェブやソーシャルメディアを通じて即座に知見を得るようになり、また、目に入るあらゆる場所に企業のマーケティングメッセージが氾濫している状況において、企業・組織は消費者にとって適切なメッセージをタイムリーに発信することに大変苦労しています。消費者は今、パーソナライズされ、状況にぴったり合致した顧客体験を期待します。このため、企業・組織がリスクの検証やビジネスチャンスの評価のために費やせる時間は短くなってきています。我々の課題となっているのは、10年分のERPデータと20年分の顧客履歴を結合し、さらにそれを現在の顧客との対話データとどのように融合させるかといったことです。これに加え、データの中には非構造化データも含まれており、現在のIT環境ならびにデータウェアハウスは、このようなリアルタイムな状況判断に対応するようなつくりになっていないことがすぐに明らかになるでしょう。

このような現実に、いま多くの企業・組織が直面しています。業界のリーダーは、ビックデータをチャンスと捉え、High-Performance Analytics (HPA)は、競争優位性を確実に獲得する手段だと考えています。営業チームやカスタマーサービス、ATM、ウェブサイトあるいは他の業務アプリなどを通じ、アナリティクスから得た洞察をどのように意思決定につなげるかということが肝要なのです。

優れたカスタマーエクスペリエンスを提供する秘訣

リアルタイムで取得した洞察により優れたカスタマーエクスペリエンスの提供に成功している企業・組織には、以下の共通点が見られます。

  • 正確である。どんなに速くても洞察に乏しければ、早々に顧客を怒らせることになります。洞察の正確さを向上するには、既存の構造化データ(正しいデータソース)と、非構造化データを一緒に分析する必要があります。つまり、データを一部だけサンプリングするのではなく、全てのデータを分析するのです。
  • イベント駆動型である。顧客のスピードでビジネスをするには、次の段階へのトリガーが何かを把握し、それを予測、そして逃さないよう注意深く見守ることが必要となります。顧客が企業・組織といつ、なぜ対話するのかを知っておくことは、ビジネスの成長を切り拓くために非常に重要です。顧客にただオファーをするのではなく、適切なオファーをリアルタイムで届けることがチャンスになるのです。クレジットカードのオファーをメールで受け取ることがあります。何らかのイベントにおいて情報がキャッチされ、その時点でこのようなオファーが必要と判断されたのです。3週間後に送ったのでは、ただのスパムになるでしょう。
  • 利用可能にしている。ビジネスを成功させるには、顧客と関わるポイントに洞察を導くプロセスをオペレーション化し、提供することが不可欠です。これは、アナリティクスの「コンシューマライゼーション」あるいは「民主化」と言われています。具体的には、ウェブサイトのポップアップやコールセンタースタッフ向けに表示される動的なスクリプト、あるいは営業がタブレット上で閲覧する地域別のレポートといったようなシンプルなものが考えられます。日々のビジネスにおける意思決定者が手元で洞察を得られるようになることが、リアルタイムアナリティクスの真髄なのです。

HPAは顧客のスピードで洞察を提供する

HPAは主に次の3つの方法で、リアルタイムによる企業・組織の競争優位獲得を実現します。

  1. 全てのデータを分析可能に - 洞察の精度を上げるには、会社のデータウェアハウスにある構造化データと、ファイヤウォールの内側(メール、音声)と外側(ソーシャル)にある非構造化データを集約できる必要があります。HPAは、Hadoopなどの技術を採用し、統合データに基づいた洞察を引き出します。
  2. 洞察獲得のオペレーション化 - かつてないほどに縮小しているビジネスチャンスを活かすには、より速い洞察の提供が極めて重要です。意思決定サイクルの迅速化は、会社・組織で使用しているCRMのようなアプリケーションやオンラインストア、ウェブサイトに意思決定サービスを組み込み、洞察が見えるようにしなければなりません。HPAは、データを価値に変えるあらゆる工程を飛躍的にスピードアップします。データの取得から、変換、保存、そして高度なアナリティクスの実行までを全てインメモリのストレージで処理するため、より大きなデータセットに対応しながらも、純粋なスピードアップが実現できるのです。
  3. モビリティ - 洞察を、顧客と関わる人に届けることが最も重要です。ウェブやネイティブアプリケーションによる提供を可能とすることで、それぞれの顧客にふさわしい洞察がリアルタイムに届けられます。

HSBC:Analyticsがもたらすイノベーションにより、カスタマーエクスペリエンスを改善

従来のクレジットカード不正利用の検知では、過去の不正行為の取引をサンプリングし、不正行為のパターンにあてはまる取引がないかをモニタリングします。そして疑わしい取引が見つかってから、調査、通知、特定を行うプロセスが開始されます。HSBCでは、リアルタイムな不正防止に移行することでセキュリティの強化や不正行為の減少、カスタマーエクスペリエンスの改善を実現し、これによってクレジットカードサービスの差別化に成功しました。もし不正なカード取引を見落としてしまったら、カスタマーエクスペリエンスはどうなるでしょうか。その顧客は、たとえば食品、あるいはディナーの費用を支払ってしまいます。顧客はこのように不愉快な経験をした場合、十中八九サービスを解約するでしょう。HSBCでは、何百万件も発生する日々のクレジットカード取引の全データをスムーズに分析することで、顧客がより安心できるサービスの提供を保障しています。

リアルタイムアナリティクスが、顧客中心戦略の鍵となる

リアルタイムアナリティクスを実現するには、まず何をすべきでしょうか。顧客にとってプラスとなる、重要な意思決定がなされる場所を探してください。ここを利益へつなげることが課題であり、アナリティクスが力を発揮するところです。次の例のようにまず考えてみてはいかがでしょうか。

  • 店頭の一角で、買い物客にパーソナルなリアルタイムオファーを行う。売り場の詳細や、オファーに関連する情報を引き出すためのトランザクションを盛り込む。
  • カスタマーエクスペリエンスに影響する資産の予知保全を行う。これまでの不具合発生パターンの兆候が予測できるマシンデータを分析する。(例:電力供給網、通信塔、ATM、生産ラインなど)
  • 個々のリスクを基とした保険の価格設定。パーソナル性の高い保険は、長期的に見れば利益の拡大と捉えることができると同時に、市場での差別化を図ることができる。
  • 運送、物流における業務中断管理。ひとつの間違いが引き起こす連鎖反応を把握し、別の資源や要員を再度調整して企業と顧客の双方にとって一番良い結果を出す。「あっ」と思ったらすぐに行動する。

リアルタイムアナリティクスについての詳細は右のホワイトペーパーでもお読みいただけます。