前向きな発想で複雑なリスク課題を解決

ユナイテッド・オーバーシーズ・バンク(United Overseas Bank)のCRO(最高リスク管理責任者)が語る、リスククラス間の相互作用と、銀行向けの準リアルタイムのリスク管理ソリューション

銀行経営におけるリスクの考え方を端的に言えば、「すべてのリスクは適正に価格が設定される限り、良性のリスク(グッドリスク)である」となる。この基本原則を理解すると、緻密な価格設定がいかに重要であるかがよく分かる。

しかしながら、今日の巨大な多国籍銀行の多くでは、資産の価格設定とポートフォリオの最適化が、とてつもなく複雑な課題として銀行経営にのしかかっている。事実、先般の不良債権問題は世界中の価格設定と貸付判断に大きな影響を与えることになった。計算が正しくなければリスクは見えず、含み損に耐える十分な資本を準備して銀行を守ることもできない。

ところが、巨大なグローバル銀行では、たった1つの部門でも何百万件という融資や担保権を扱っており、それらを対象にして多数のリスク要因を計算するのに文字通り何日もかかることがある。そして、この計算が完了しなければ、信用リスクと市場リスクを抱合して、全社的な観点から組織のリスクの全体像を正確に把握することはできない。

SASとユナイテッド・オーバーシーズ・バンク(以下、UOB)は、グリッド・コンピューティング、行列計算、およびIn-Database分析を組み合わせたHigh-Performance Analyticsソリューションを用いて、この大規模計算の問題に共同で取り組んできた。

以下では、UOBのCROであるサム・ミン・ソン(Tham Ming Soong)氏が、このプロジェクトを開始した経緯と、準リアルタイムのリスク計算が銀行業にどのようなメリットをもたらすかを語っている。聞き手はミカエル・ハグストローム(SASのヨーロッパ・中東・アフリカ(EMEA)地域・アジア太平洋地域担当上級副社長)。

ビジネス・アナリティクス機能を強化すること以外に、意思決定の基盤となる情報の質を高める方法はありません

サム・ミン・ソン氏
CRO(最高リスク管理責任者)

ミカエル・ハグストローム: 銀行業を取り巻く状況は去年の今頃と比べて変化しましたか?

サム・ミン・ソン氏: かなり変化しましたね。誰もが世界金融危機の広がりを目の当たりにしたのですから。特にアジアの銀行に関して、私たち自身がとても手に負えない事態に見舞われていることに気付きました。これから数ヶ月の間に、資本と流動性の両方の視点から法定要件が強化されるものと見ています。残念ながら、銀行はまだ、法的要件を順守するだけの姿勢から、より適切な管理体制の構築に向けた内発的な動機を高める姿勢へと移行できていません。

ハグストローム: あなたは銀行全体のリスク管理を主導する立場ですが、リスクには信用リスク、市場リスク、オペレーショナル・リスクなどが含まれます。1年前と比較して、この領域の要件はどう変化しましたか?

ミン・ソン氏: 2006年に私たちはリスク管理の要件を再検討するプロジェクトを開始しました。当時は、信用、市場、流動性というそれぞれのリスクの枠組みを統合することを考えていました。ところが、世界金融危機のせいで、私たちはリスククラス間の相互作用についてより深く理解することを迫られたのです。これまで、信用リスクの管理は縦割り型の手法で行われてきました。しかし、例えば不良債権が資金需要に与える影響を考えれば、その関係性は長い間ずっと過小評価されてきたと言わざるを得ません。

ハグストローム: リスクおよび資本配分の管理を、部門レベルではなく全社レベルで行うことの意義はどこにあるのですか?

ミン・ソン氏: 特定の取引や取引プールだけに着目すると、一見、非常に収益性が高く見えることがあります。しかし、それらをより大きなポートフォリオに統合した場合、ポートフォリオ全体から見て、かなりネガティブな要因になることがあります。相互作用を見ることができなければ、私たちが求めている効率性は達成されません。UOBで2006年にこのプロジェクトを開始したとき、私たちは基本となる3つの方針を掲げました。その1つは、長期にわたり持続的成長を達成することです。そのために私たちに求められるのは、何が効率的かを知り、非効率な要因を特定し、それらの要因を排除することに取り組む能力です。

ハグストローム: SASとUOBは、1年ほど前にポートフォリオ最適化の問題に共同で取り組み始めました。私たちが今、解決しようとしている問題について説明していただけますか?

ミン・ソン氏: 従来のポートフォリオ最適化は資産配分が中心です。ポートフォリオ最適化について検討を始めた当初は、この問題を今とは相当違う角度から見ていました。現在では、これを資本配分の問題であると捉えています。UOBは18ヶ国で事業を展開し、タイ、マレーシア、インドネシア、および中国に子会社をもっています。資本は国境を越えてすぐに流用できるものではありません。戦略的な視点から投資先を決定し、投資対効果の視点からそれを検討し、投資環境別に期待収益率を算定しなければなりません。そうした分析の結果、私たちは東南アジアの主要5ヶ国にまたがるポートフォリオについて、従来の資産管理ポートフォリオ問題と特に違った面はないと判断しました。唯一違うのは、資産を最適化するのではなく、資本配分を最適化しているということです。ですから、資産配分ソリューションを検討しながら、その同じテクノロジーを資本配分にも適用できないかと期待しているのです。

ハグストローム: このプロジェクトの要件はどのようなものだったのですか?

ミン・ソン氏: 全行レベルのリスク管理ソリューションについて検討を始めたとき、SASから提案依頼(RFP)への回答を受け取りました。当初はオープンソース・ソリューションを検討していたのですが、SAS®プラットフォームへの理解が深まるにつれ、それが私たちのリスク管理を実現する上で有望なソリューションであることが明らかになってきました。すぐに使えるパッケージ・ソリューションを購入する企業の例をいくつも見てきましたが、そうしたソリューションはあまり長続きしません。まず私が思ったのは、リスク管理システムをアップデートするための膨大な費用を、5年おきに取締役会で決済しなければならないような事態は避けたいということでした。プロトタイプ(原型)を作成できる柔軟性も必要でした。試したいアイデアがたくさんあったからです。そして、SASには確かにその能力がありました。2008年の春にSASと共同でこのプロジェクトを開始して以来、私たちは、両者が互いによく似た目標をもっていること、また志を同じくする者同士で共通のソリューションを開発する機会に恵まれたことを実感するようになりました。

ハグストローム: 以前の環境と比べて、準リアルタイムのリスク管理レポートはいかがですか?

ミン・ソン氏: 初めてモンテカルロ・シミュレーションを使って信用リスク経済資本モデルを実行したときは、3日以上かかりました。その後、SASと共同で改良を行い、約8時間で結果が得られるようになりました。ところが、それに市場リスク要因を加味し始めたところ、計算に11日かかることが判明したのです。昨日見たグリッド・コンピューティングによる改善は目を見張るものがあります。複雑な計算が数分で完了しました。もちろん、私たちが現在もっているリソースと、SASのグリッド・リソースとのバランスを取る必要はあります。その中間に、私たちが求めるソリューションがあるのです。

ハグストローム: リスクをリアルタイムで把握するメリットは?

ミン・ソン氏: 実際のところ、リアルタイムである必要はありません。必要なのは、リアルタイム(準リアルタイム)に近い状態であることです。市場はどんどん変化していきます。競合他社よりも先に市場の変化を捉えることができれば、優位性が得られます。これは、商品を市場にいち早く投入できること、あるいは市場からいち早く撤退できることを意味します。

確かに、速ければ速いに越したことはありません。それによって、また新たな可能性が生まれることも考えられます。実際、「what if」分析をリアルタイムで実行できれば、もっと多くの価値が生み出されるでしょう。また、計算のキャパシティが増えれば、さらに一歩抜け出せる可能性があります。

ハグストローム: それが2分か3分で実行できるとしたら、どうなりますか?どんなことができるようになるのでしょうか?

ミン・ソン氏: リスク管理の一貫として、大規模な貸付判断の影響を上級管理職たちに実証的に示すことが可能になります。特定の貸付判断がポートフォリオ全体にどう影響するかを、ほぼリアルタイムで確認できるわけです。また、複雑な貸付判断を正確または安全に準リアルタイムで行うキャパシティや機能があれば、顧客により深く寄り添ったり、より安全なオペレーション環境を構築したりできます。(担保価値の評価をもっと頻繁かつ正確に行うことができれば、より低いマージン(利幅)を受容しつつ取引量を増やし、財務状況を改善することも可能です)

ハグストローム: そうした機能は、国内の他の銀行と比べてどうなのですか?

ミン・ソン氏: 他行も間違いなく、私たちと同じような機能を開発しようと考えているはずです。私たちの目的はリスク・テクノロジーを先導することではありません。真の狙いは、利用可能なテクノロジーを投入して、組織の財務状況をより健全なものにすることにあります。

ハグストローム: それを運用した場合、現実にどのような問題が解決されるのでしょう?

ミン・ソン氏: 1つは、価格設定の問題です。現在、行内で行っている複雑な取引の中には、私たちが十分な価格設定能力を確保できていないものがあります。他行と比較して、私たちは数多くの取引から手を引いており、それほど多くのリスクを保有していません。その結果、スプレッドが縮小しています。価格をより適正に設定し、リスクをより的確に把握できるようになれば、適度にリスクを取りながらスプレッドを維持することも可能になります。

ハグストローム: リスク計算を準リアルタイムで扱えるようになると、最高リスク管理責任者の仕事はどのように変化するのでしょう?

ミン・ソン氏: 極めて大きな変化です。リスクを管理するだけでは十分でない、ということになるでしょう。私たちのリスク管理アプローチは、単なる管理の域を超えるものです。私たちが検討しているのは、リスク管理のリソースをどう展開すれば、ビジネスチャンスの発見につながるかという点です。リスク管理のリソースを適切に展開して、組織の財務状況の健全化に寄与したいのです。また、より広い視野で金融制度を守ることにも意識を向けています。言わばジグソーパズルのような金融業全体から見れば私たちは一片のピースに過ぎませんが、金融機関自体が堅固でなければ、どのような制度でも金融の安定は得られません。同業者が何をするか、あるいは何をしないかは私の関知することでありませんが、組織を財務的に健全な状態にすること、または少なくともその役に立つことで、組織全体に貢献できるものと信じています。

ハグストローム: 個々の事業部門レベルはいかがですか?準リアルタイムのリスク計算を提供した場合、彼らの仕事はどう変化するのでしょう?

ミン・ソン氏: 一例としては、トレーダーに各自のポートフォリオをどう形成すればよいかを調べるツールを提供できます。意思決定はしたものの、その意図に反するようなポートフォリオが形成されてしまった場合、やり直しにかかる費用は馬鹿になりません。もう1つの可能性はシナリオ分析です。これにより、市場の変化が事業ポートフォリオに及ぼす影響を事業分野別あるいは地域別に、より正確に把握できるようになります。ビジネス・アナリティクス機能を強化すること以外に、意思決定の基盤となる情報の質を高める方法はありません。

ハグストローム: 銀行業界をより広い視野で見るとどうですか?

ミン・ソン氏: 監督機関と関わり合う機会が増えるかもしれません。銀行の規制環境の変化は著しく、ストレステストの実施に関する要件が増大することになりそうです。監督機関のもう1つの意向は、「リバース・ストレステスト」なるものの導入です。これはバランスシートに破綻が生じるようなパラメータを銀行自身に定義させるというものです。この種のストレステストは非常に有効ですが、大きなコンピューティング・パワーを必要とします。

私たちは監督機関とうまく付き合い、例えば次のようなことを言えなければなりません。「私たちの現在の能力はこのとおりです。インフラが十分整備されていないので、要件を達成できないかもしれません。問題の重要性は理解していますが、金融業全体として要件を達成できるように、補助金の形で支援を得られないでしょうか?」 同業者と話していて気付いたのは、誰もがこの問題と格闘していることです。SASソリューションの検討を開始した当初、この危機はまだ顕在化していませんでした。しかし、経験が私たちを正しい方向に導いたことは間違いありません。この経験を同業者と共有することには一定の価値があるでしょう。
私たちは単独で進んで「当行こそが業界リーダーである」と主張するよりも、業界を挙げてこの問題に取り組みたいと思っています。そのような単独行動は銀行業界全体に何のメリットもありません。少なくともシンガポール銀行協会(The Association of Banks in Singapore)のリスク管理標準化委員会(Risk Management Standing Committee)の議長の立場として、そう言うことができます。

ハグストローム: このソリューションによって、銀行業は今後3年でどう変わると予想されますか?

ミン・ソン氏: この業界に求められているのは、「前向きなクリエイティビティ(positive creativity)」だと思います。この言葉を使うとき、私は細心の注意を払っています。どんなテクノロジーが利用できるか見極めなければなりませんし、そのテクノロジーで何ができるかを自問しなければならないからです。テクノロジーをどう活用すれば、より優れた効果が得られるのだろうか、と。例を1つ挙げましょう。
現在、当行では約10名の博士号取得者がリスク管理に従事しており、博士号取得者が最も集中している部署です。しかし、私たちは彼らの潜在能力をフルには引き出せていません。彼らはモデルを検証する作業で手一杯だからです。私はその作業を合理化したいと思っており、必要なテクノロジーはもう揃っていると確信しています。それを実現できれば、商品開発や市場開拓など、さまざまな研究開発活動にリソースを振り向けることが可能になります。

私はこのソリューションが、銀行業におけるリスク分析とビジネス・アナリティクスを適切な方向へ発展させる契機になるものと考えています。これにより、金融および経済をより安定した状態に向かわせるための基盤が形成されます。この機能が銀行業に知れ渡れば、金融の健全性を求めるリスク管理文化が、より強固な形で進展することでしょう。

ハグストローム: 世界金融危機は信用危機も生み出しました。この領域のソリューションは、信用不安の解消に役立つと思いますか?

ミン・ソン氏: 信用危機の問題は、テクノロジーだけでは解決できないでしょう。銀行や金融機関は、経済の血脈です。その信用が根本から崩壊したのは間違いありません。しかし、リスク・エクスポージャーを把握していることを自ら実証し、ステークホルダーに積極的に情報を提供することができれば、信用を再び取り戻せるはずです。さらに重要なのは、とても難しいことではあるのですが、正しいと思うことを実行する勇気です。そして、CROとして現場に足を運び、「私たちは間違った方向へ進んでいないか?」と問いかけることが大切なのだと思います。

課題

UOBは数百万件の融資や担保権を対象に複数のリスク要因を計算する必要があったが、このプロセスに何日もかかるため、リスクに関して正確な情報を得られるタイミングが遅すぎるという問題があった。

ソリューション

SAS® High-Performance Analytics

利点

UOBが実現できたこと: リスクを準リアルタイムで計算し、商品を市場に速やかに投入、あるいは市場から速やかに撤退し、真の競争優位性につながるビジネスチャンスを発見

詳細

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