独立行政法人 国立がん研究センター

臨床試験データの統計解析で最先端のがん治療研究に貢献
―複数の臨床試験を効率的に運用する分析基盤をSASで構築―

国立がん研究センターは、日本のがん医療の拠点として全国のがん患者に最先端の医療を提供するとともに、がんの病態解明と治療開発に向けた先端的な研究を行っている。同センター内の多施設臨床試験支援センターは、効果的ながん治療法を開発するための多施設共同臨床試験グループであるJCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)の臨床試験を支援している。

JCOGに参画する各医療機関から収集される臨床試験データの統計解析業務に、従来よりSASのアナリティクス製品「Base SAS®」を活用し、がん治療開発研究のデータマネージメントや統計解析が正しく行われる仕組みを運用してきた。さらに2005年には、モニタリング報告書の作成にあたって手作業によるWordへのデータ転記を排除し、集計業務を効率化するツールとして「SAS® BI Server」を導入した。同時並行で多数行われる各臨床試験のデータ集計を効率的に行い、新しい治療法の安全性や有効性を科学的に検証するツールとしてSASは不可欠な存在になっている。

標準治療は科学的な根拠にもとづいて決定される

独立行政法人 国立がん研究センター(以下、国立がん研究センター)は、がんなどの悪性腫瘍に関する医療レベルの向上を目的とした調査・研究・技術/治療法の開発、医療の提供、および医療関係者の研修などを行っている。高度な基礎研究及び臨床研究機能を有し、がん医療・研究を牽引することで、世界をリードする医療政策を国と一体になって推進している。

国立がん研究センターにおいて、より効果的ながん治療法を開発するための組織のひとつが多施設臨床試験支援センターである。同組織は、全国がん(成人病)センター協議会加盟施設や、がん診療連携拠点病院をはじめとする約200の医療機関が参画する多施設共同研究グループJCOG(Japan Clinical Oncology Group:日本臨床腫瘍研究グループ)による臨床試験が適切に計画され、スムーズに遂行されるのを支援している。臨床試験計画立案の支援、研究実施計画書(プロトコール)の作成支援、患者登録、データマネジメント、モニタリング、有害事象情報の共有、およびデータの統計解析などが主な業務である。

多施設臨床試験支援センター センター長、JCOGデータセンター データセンター長 福田 治彦氏は、「がん治療では、抗がん剤を使用した化学療法、手術、放射線治療を組み合わせた、治療ガイドラインで定められた治療が標準治療として行われています。がんの臨床試験において、開発中の治療法が科学的に評価され、従来のものより優れていることが証明されると、それが新しい標準治療として認められます。われわれのミッションは、こうした新しい治療が真によりよい治療であるかどうかを正しく評価する仕組みを運用することです」と語る。

SASプログラムが正確かつ再現性のある解析を担保

JCOGでは、研究実施計画書にもとづいて常時30以上の多施設共同臨床試験を同時並行で実施している。これらの臨床試験では、実施中の試験一覧を載せたWebページや医師の紹介をベースに患者さんに臨床試験に参加していただくスタイルをとっており、年間患者登録数は約3,000人に上る。そして、多施設共同臨床試験に参画する各医療機関には、投薬状況や検査などの治療経過、効果があったかどうかの判定、治療の副作用、転帰などの必要事項を、チェックボックス形式を主体とする報告書に記入してもらう。各登録患者の治療経過などの情報はコードで識別できるデータとしてJCOGデータセンターに集約される仕組みである。

JCOGデータセンター 統計部門 水澤 純基氏は、「JCOGでは20年以上にわたってBase SASを利用しています。臨床試験データの解析結果にもとづき、より効果的な治療法を標準治療として定着させるためには、解析の妥当性と精度は必ず保証されなくてはなりません。学会においても定評のある、信頼性の担保された統計解析ソフトウェアを用いることが不可欠なのです」と話す。

福田氏は、「多施設共同臨床試験では、日々送られてくるデータについて同一の解析を繰り返すため、首尾一貫した再現性のある結果を得ることが求められます。SASでは、一度プログラムを記述すれば、データの更新に伴う同一のプロシジャを余分な操作なく何度でも正確に実行できます。実績に裏付けられた信頼性の高さもSASを評価するポイントです」と語る。

SASを利用した統計解析により実績を積み重ねる一方で、データの集計・分析を行うための新たなツールの必要性に迫られた。課題となったのは、モニタリングレポートの作成プロセスである。

モニタリングレポートは、各臨床試験についてデータが正確に報告されているかどうか、研究実施計画書が遵守されているかどうか、治療が安全に行われているかなどを評価し、問題点を研究者にフィードバックするためにJCOGデータセンターが半年ごとに作成するレポートである。このレポート作成に付随する膨大な集計業務は従来、Base SASを扱える2名の生物統計家が担当していた。このため、その後の工程で報告書を仕上げるデータマネージャーがデータの集計を依頼してから結果が戻ってくるまでに時間を要していたのだ。

JCOGデータセンター データマネジメント部門チーフデータマネージャー 加幡 晴美氏は、「当時は、モニタリング報告書の作成に必要なデータセットを、ディスクなどの記録媒体で生物統計家に渡し、集計結果は紙で戻してもらっていました。レポートの作成では、戻された紙のデータをさらに手作業でWordに転記し直さなくてはならなかったのです」と語る。

報告書の作成プロセスを劇的に効率化

こうした課題を解決するため、JCOGデータセンターはビジネス・インテリジェンス製品であるSAS BI Serverを導入。結果、モニタリングレポートの作成において効率的な分業プロセスを確立することができた。

具体的には、SASプログラミング言語を扱える専任のプログラミングスタッフを採用し、必要なSASプログラムを迅速に実装できる体制を確立した。データマネージャーは、SAS BI Serverで処理するデータをSASデータセットに変換可能なデータファイルを準備し、SASプロシジャを実行するだけで集計結果を導けるようになった。また、SAS Add-in for Microsoft Officeによって集計データをExcelシートにロードして扱えるようになったため、レポートの作成業務が劇的に効率化した。手作業によるWordへのデータの転記ミスや記入漏れなどのリスクを完全に排除できるようになったメリットも大きい。

水澤氏は、「データの品質や解析プロセスが妥当であることが検証されているため、われわれは安心してSASソフトウェアを使い続けられます。より効果的ながんの治療法の研究にSASは欠かせない存在です」と語る。

JCOGデータセンターは今後、遺伝子解析やバイオマーカーの探索においてSASを利用することを検討している。遺伝子研究を推進することでがんの本態を解明し、より効果的な治療法を明らかにしていく。

また、現状では適応外使用となっている医薬品の使い方が厚生労働省から承認されるよう、医薬品の「適応拡大」を目標とした臨床試験にも注力していく計画だ。たとえば、胃がんの治療薬としてのみ薬事承認が得られている医薬品について、食道がんにも効果があることを臨床試験によって科学的に証明できれば、当該医薬品の薬事承認・保険適用の範囲を食道がんにまで広げられる。結果、患者は最良の治療法を標準治療として医師から推奨してもらえるようになり、がんを克服できる可能性が高まることになる。

福田氏は、「新しい治療法が安全かつ効果的であるという結果は、学会や論文で発表することによって広まります。その根拠となる結果を導く統計解析ソフトウェアとしてSASを用いるのは、業界における事実上の標準といえます。より高いデータの信頼性が要求される適応拡大を目指す臨床試験を推進する中で、SASの重要性はますます高まっていくでしょう」と話している。


National Cancer Center Hospital

課題

モニタリングレポートの作成に伴う膨大な集計業務は、SASを扱える2名の統計スタッフが担当し、後工程で報告書を仕上げるデータマネージャーには紙で結果が戻されていた。このため、手作業でWordに転記し直すプロセスが発生していた

ソリューション

臨床試験データの品質や解析プロセスの妥当性を担保しながら効率的な臨床試験プロセスを整備した

利点

モニタリングレポートの作成にあたり、SASプロシジャを実行するだけで臨床試験データの集計結果を導けるようになった。効率的な分業プロセスを確立し、手作業によるWordへのデータの転記ミスや記入漏れなどのリスクを排除した

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